逆ソクラテス [著]伊坂幸太郎

 小学校が舞台の短編集。伊坂幸太郎さんの作品らしく緻密な伏線と、はっとさせられる展開、シンプルで胸を打つ言葉が溢れていた。主人公が小学生ということで、ユーモラスなやりとりや素直な問いかけ、ひたむきな姿が心打つ場面が際立った。
 表題作の「逆ソクラテス」は、上の立場から決めつける教師の先入観を崩そうと、転校生の安斎が作戦を練り、主人公たちを巻き込んで実行していく話だ。失敗にもめげず必死に現状をひっくり返そうとする姿にワクワクさせられる。また、自分のことを決めつけられそうになった時に魔法の言葉として安斎が勧める「僕は、そうは思わない」という台詞が印象深い。私が小学生だった頃、先生が決めたことは正しいと信じて疑わなかったし、上級生から「目立っている」という理不尽な理由でいじめられた時は反発もできなかった。目の前で起きていることが人生のすべてで、たとえおかしなことでも、その先を自分の手で変えられるとは思っていなかったのだ。もし当時の私が、「そうは思わない」と言っていたら状況は変わっていただろうか。
 「アンスポーツマンライク」も好きな話だ。同じバスケットボールチームだった5人が、大人になって再会したところで恐ろしい事件が起こる。小学校最後の大会、残り1分のところで追いつくことができず、敗北した悔しさや不甲斐(ふがい)ない思いを背負っていた主人公たちが、それを払拭するかのように活躍する場面は爽快だ。結末が最終話にもつながるところにはまた涙が溢れた。
 どの話も最高の読後感だった。と同時に、深いせつなさも感じた。大人になった主人公たちの、もう戻れない時を思う様子に気持ちが重なり、胸が締めつけられた。
 今日も私たちは戻らない時を生きている。あの頃の、ひたむきな気持ちを忘れずにいたい。そう思わせる作品だった。
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 いさか・こうたろう 1971年生まれ。小説家。著書に『ゴールデンスランバー』(本屋大賞)、『重力ピエロ』など。