ゲーム「あつ森」は“沼”にハマる楽しみ

――無人島を舞台に、DIYしたり動植物を獲ったりなどの日常生活、島の開発に他のプレイヤーとの交流がテーマの「あつ森」。本書はその無人島生活の基礎知識に始まり、キャラクターやアイテム、発生イベントなど詳細なゲームデータ・ビジュアルを網羅しています。1000ページを超え、ユーザーから「辞書みたい」と言われるボリュームの本書が売れた訳に迫りたいと思いますが、まずはそもそも「あつ森」が売れた理由をどうみますか?

 ゲームそのものは今回、作り込みが特に尋常でなかったと思います。Switchは基本的には据え置き機の側面が大きいハードです。一方でこれまでの「どうぶつの森」シリーズは、ニンテンドーDSや3DSなどで発売されてきました。Switchでグラフィックやデータ量など全体的なクオリティーが上がったのです。

 さらには、「あつ森」は1人でもじっくり遊べますが、誰かとマルチプレイできる側面もあります。ソーシャルメディアで繋がっている人と情報交換したり、島を行き来したりするのが楽しい。「どうぶつの森」らしいユルさを残しつつ、友達や家族と遊んでも楽しいようにゲームデザインが良くできています。

――同じ島で最大4人まで遊べる「おすそわけプレイ」も話題になりました。特にコロナ禍が本格的になった3月発売ということもあり、家から出られない人の“誰かと繋がりたい”欲求に応えた、ともよく言われますね。

 コロナとの関係も要因としてあったと思います。人々の自宅にいる時間が長くなって時間を持て余す中、本作は緊急事態宣言の直前に発売されました。特にswitchは「安心して家庭のリビングに置けるゲーム機」として認知されていると思います。その中で、親子間や会えなくなった友達とのコミュニケーションツールとして、あつ森は活躍したのでしょう。また、テレビを付けてもどこもかしこもコロナの話題しかやっていない。そこで「誰も傷つかない、ちょっと可愛いゲーム」としてマッチしたと思います。

 さらに、個人的には「島クリエイト」という機能の充実が良かったと思っています。

――舗装や工事など、島全体をかなりの自由度で開発・デザインできる新システムですね。

 「どうぶつの森」シリーズって、一方では飽きやすいゲームでもあります。家具を揃えたりしてある程度自分が満足すると、飽きが来る(傾向にある)。物語があるわけでもなく、自分なりの楽しさを能動的に見つけないと、「何すればいいの?」となりかねない。

 でも今回は、本機能によって自分から島の地形をいじったり、家具とかいろんな物を配置してデコレートしたり、いろんなスペースを作ったりすることができる。“沼”にはまるみたいに、この楽しみを味わうとプレイ時間が伸びるのです。しかも、友達の島や知らない人の凄い(デザインの)島に行ったり、SNSで目にしたりもする。遊びのやり方がいろいろある。

 他にも、人によっては虫集めや家具コンプリートの方が楽しいというケースもあるでしょう。ファッション業界では、新作アイテムの発表会を「あつ森」の中で行うのが流行りました。任天堂は見越していなかったかもしれませんが、そこまでできるゲームであるのが素晴らしい。プレイヤーごとに遊びの幅があるのも、「どうぶつの森」らしいですよね。

電撃の攻略本 /発行:KADOKAWA Game Linkage (c) 2020 Nintendo Licensed by NINTENDO

攻略本「あつ森」はファンブックの要素も

――あつ森自体の人気の理由は分かりました。ただ、いくら大ヒットゲームがテーマとは言え、本書レベルのヒットは攻略本業界ではよくあることなのでしょうか?

 70万部というのはやはり異例な数字です。初版でうちでは(発行数の)アクセルを踏めず、品切れが多かったことが話題になりました。近年ここまで売れた攻略本は無く、僕らも知りたいくらいで……。最近はゲームの攻略サイトがすぐ出てきたりして、本のニーズは下がってきていますから。とはいえ、その中で「どうぶつの森」シリーズの攻略本は、実は(これまでも)売れる傾向にありました。

 理由の1つは、同シリーズのデータ量が膨大である点です。ちょっとしたことが気になって、調べたくなる要素が多い。特にペラペラめくって調べられる紙の本の方が、サイトより視認性には優れているのではないでしょうか。まさに辞書的な使い方がしやすいのだと思います。

電撃の攻略本 /発行:KADOKAWA Game Linkage (c) 2020 Nintendo Licensed by NINTENDO

 また本書ではデータだけでなく、プレイしていて要所要所で気になる、“データの合間”にあるようなヒントやアドバイスも網羅しようとしました。(データやイラストの)カタログ本だけだったら、僕らとしてももったいない。こういう家具ならこんなデザインが作れるといったポイントです。

 しかも、本作はプレイしただけだと分からないことがとにかく多い。「流れ星が流れたらどうするの?」など、気になることがいくつも出てきます。うちは任天堂からライセンスを得ているので、正解に近い情報を載せられた。

――一方で、やはり昨今は攻略サイトがあまりにも充実しています。特にスマートフォンゲームだけでなく、「あつ森」のようなパッケージソフトであってもオンラインで頻繁に内容がアップデートされたり、追加コンテンツが出たりするのが当たり前になりました。「アプデ前の情報しかない」といった攻略本への批判も頻繁に目にします。

 やはり、攻略本はゲームのアップデートにスピード感で追いつけていない場合が多いです。(一般論として)ゲームのアップデート内容を盛り込んで攻略本を(増刷で)刷り直そうとしても、製作費に見合わないものですし。どれだけ売れるかわからないので。

 一方で、ゲーム攻略本全体の売り上げもゲームソフトの本数も落ちていますが、資料集やアートワークなどは逆に伸びています。ゲームスペックが上がっていることもあり、キャラクターや世界観、イラストを見たいというニーズは増えていると思います。

――ネット上の本書の口コミでも、イラスト集やファンブックとしても楽しんでいる声を散見します。

 作っている側としては、見やすく分かりやすく丁寧に構成することが一番です。特に本作はデータ量がとても多いので、いかに分かりやすくまとめるかでした。あまりファンブック的な要素は重視していません。ただ、そのような評価をもらえるのは、例えば住民データなどを網羅している辺りからかもしれません。(彼らの)種類ごとにまとまっていたり、口癖などが載っていたりして、見ていて楽しいと思いますね。

 さらに、「どうぶつの森」シリーズについてはそもそもユーザーの母数が大きく、中でも女性ユーザーが多めという点が大きかったと思います。普段はさほど熱心にゲームをしておらず、攻略サイトにも触れない彼女たちが「どうぶつの森の本だから」と本書を手に取ってくれるのだと思います。

電撃の攻略本 /発行:KADOKAWA Game Linkage (c) 2020 Nintendo Licensed by NINTENDO

紙メディアが生き残るためには

――今やYouTubeの動画実況などでゲームの攻略情報を得る人も増え、必ずしもテキストサイトだけではなくなりました。

 確かに小中高生などの若年層は、世代的には動画で(ゲーム情報に)満足する人が多いと思います。ただ、動画はアクションやストーリーのあるゲームが向いています。あつ森にそれはないので、攻略情報を動画で見ようという人は少ないと思いますね。

 攻略サイトだってダメだとは全く思いません。ただ、メーカーから許諾と資料をもらえる(公式の)攻略本の正確性や信頼性はサイトに無い強みです。そしてユーザーのニーズを捉え、そこに応える内容を作る。つまりはゲーム情報を“料理”できるのが僕ら(出版社)なのです。

――最後に、ゲームにおける攻略本と攻略サイトの関係と同様に、報道や文芸などあらゆる情報環境で「有料の紙メディアがネット上の無料コンテンツに脅かされつつある」状況が広がっています。攻略本やゲーム雑誌のような、これまである程度の品質を担保してきた紙媒体は、どうすれば生き残れると思いますか?

 ゲームに限って言うと……。やはり保存性といった、「手元に残しておきたい」というニーズは高まっており、そこにどう応えられるかが大事だと思いますね。僕は4月まで週刊ファミ通で編集長をしていました。昔の同誌は情報誌でしたが、今はそういう作り方をしていない。(速報は)ウェブメディアの方がやるので、雑誌では30〜50ページでも書けるゲームタイトルを見つけ、開発現場を取材するなどして深く掘り下げる。つまり、(雑誌を)永久保存版として買ってもらえるようにするのです。あくまでゲームの場合ですが、そうすれば紙も残る。昔のような“読み捨て”では、なかなか難しくなっていると思うのです。

お話を聞いた⼈林 克彦(はやし・かつひこ)ゲームメディア編集・運営者

KADOKAWA Game Linkage ファミ通・電撃ゲームメディア事業本部長、ファミ通グループ代表。前週刊ファミ通編集長。1973年青森県生まれ。94年から週刊ファミ通編集部勤務。ファミ通で長くゲームメディアの最前線に携わる。20年4月より現職。