9月16日から20日まで「平和のための博物館国際ネットワーク」主催の「国際平和博物館会議」が日本で開かれる。記念すべき第10回となる今年は、コロナ禍の影響でオンライン形式に変更されたが、プログラムの一環として、京都国際マンガミュージアムで「マンガ・パンデミックWeb展」を実施する。今回はこの展覧会について詳報したい。

 新型コロナウイルスが世界的に感染拡大している中、私たちがいま考えるべきなのは何か。その答えの一つとして、マンガ展をウェブサイト上のバーチャル空間で行うことにした。

 現代の平和学では、「平和」とは単なる「戦争の不存在」ではなく、「暴力の不存在」と再定義されている。そして「暴力」とは「人間能力の全面開花を阻害する原因」を意味しており、飢餓や貧困だけでなく、社会的差別や人権抑圧、環境破壊、医療の遅れまで、様々なものが含まれる。

 つまり、「暴力」は、どこか遠い世界の話ではなく、私たちの生活のすぐ近くに存在しているのだ。このように考えてみると、現在のコロナウイルスの感染拡大は、国内外で新たな「暴力」を引き起こしているといえるのではないか。

 それを裏付けるように、感染者に対する差別や偏見がはびこり、政治的判断の遅れや過ちで救命医療現場が逼迫(ひっぱく)している。また、経済活動が急激に停滞することで企業の倒産が相次ぎ、労働環境は悪化する一方だ。人間の命と尊厳を脅かす事態が、日本だけでなく世界中で発生している。

 こうした世界情勢をふまえ、「平和/暴力」を視覚的に表現するマンガ展を企画した。作品の募集方法についても新たな試みをしている。京都国際マンガミュージアムのホームページで募集要項を紹介しているが、展示作品の数はゼロからスタートする。つまり、あらかじめ選んだ作品を掲示するのではなく、これから集まってくる(はずの)応募作品を順次発表していく手法とした。

安齋肇氏の「はっけよい」

しりあがり寿氏の「テレビの中のディスタンス」

 なぜ、こんな手法を採用したのか。この間の感染症対策を振り返ると、国や地域によって方針が大きく異なったり、日ごとに私たちの「正しさ」に対する価値観や行動基準が変わったりする。先に掲示作品を固定した場合、期間中に作品の内容が陳腐化する恐れがあると考えた。

 最終的にどれだけのマンガ作品によって彩られることになるのか、今は誰もわからない。もしかすると、展覧会として成立しない可能性さえある。様々なリスクを抱えながらも、ウイルスに負けないマンガの瞬発力と拡散力に期待しての判断であり、挑戦でもある。バーチャル展覧会という点も含め、京都国際マンガミュージアムにとって初めてづくしの展覧会になっている。

 作品の応募資格はプロ・アマの別はもちろん、国籍や年齢も問わない。一コママンガかストーリーマンガかといったジャンルも自由だ。展示作品は日英併記で翻訳される。

さそうあきら氏の「toccata」

 加えて、作品数だけでなく、感染者数ならぬ応募者数を定期的に公表することで、会期中に「マンガ熱」が世界へ伝播(でんぱ)していく様子を伝える予定である。なお、この紙面には展示趣旨に共鳴してくれた作家たちによる参考作品を掲載している。笑いに風刺、ゆるさに切なさと、何でもありだ。

 本展の会期は9月11日から12月25日まで。ぜひ、マンガの力とあわせて、コロナ禍時代の「平和」と「暴力」について、一緒に考えてほしい。=朝日新聞2020年8月25日掲載