NHK出版 学びのきほん 「読む」って、どんなこと? [著]高橋源一郎

 正直に告白すれば、高橋さんの著書は『国民のコトバ』しか読んだことがない。しかしそこで展開された「高橋な」言葉の延髄蹴りにめまいをおこしてしまった。あの毎日新聞人生相談欄の名回答者と同一人物とはとても信じがたい。
 2週間ごとに送られる書評候補本リストにめぼしい理系書がなかったため、とりあえずチェックを入れておいた本書が届いた。さほど期待せず読み始めたところ、前著以上に強烈な延髄蹴りをくらった。ただし今度は心の奥底に。
 小学校の国語教科書の抜粋から始まる出だしを読んで、小学生向けの文章読本だったのかとまず納得。
 だが1時間目のオノ・ヨーコ『グレープフルーツ・ジュース』、2時間目の鶴見俊輔『「もうろく帖(ちょう)」後篇』と進むにつれ、高校生でなければ難しいだろうなと感じ始める。
 さらに3時間目の永沢光雄『AV女優』に至っては、高橋さん自身「(絶対に)学校では教えない文章」だと述べ、外へ散歩に出るとのたまうほど。確かにその文章は引用がはばかられるほど衝撃的な内容だ。
 私は天文学の本質は「宇宙を知り、世界を知る」ことであると日夜布教に努めている。高橋さんによれば「『危険! 近づくな!』と標識が出ているような文章」だけが読者を変える力を持つ。ある意味で両者は極めて近い。天文学と文学の本質的同義性かもしれない。
 4時間目に坂口安吾『天皇陛下にささぐる言葉』、5時間目に武田泰淳『審判』とまさに危険な文章を紹介した後、6時間目は藤井貞和の詩「雪、nobody」で心を癒やしてくれる。
 選ばれた文章とその解題が素晴らしい。まさに書評のお手本とでもいうべき文章を、身の程を顧みずここで書評している自分が恥ずかしくなるほどだ。
 わずか千円以下で自分を変える力を秘めた文章に出会えた読者は幸せである。この授業の放課後に何を読もうかなあ。楽しみだ。
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 たかはし・げんいちろう 1951年生まれ。作家。『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞。