近年、マンガをテーマにした展覧会が増えている。中には、マンガ原画が見られる展覧会も多く、マンガファンにとっては好きな作品を原画で楽しめる貴重な機会となっている。

 これは国内の話だけではなく、昨年イギリスの大英博物館で開催され、注目を集めた「Manga」展など、国外におけるマンガ展覧会の数も増えつつある。以前は編集者など、一部の人しか見ることのなかった原画が、大勢の人の目にふれるようになったのだ。

 しかし、マンガ原稿=原画は、本来展示のために作られたものではないため、短期間の展示でも退色の恐れがある。さらに、原画は他の絵画作品などに比べると保存や管理のルールが定まっておらず、古い原画の中にはすでに劣化が進んでいるものも少なくない。

 このような状況で、原画の代わりになるクローンを作るプロジェクトが「原画’(ダッシュ)」だ。コンピューターにマンガ原稿を取り込み、綿密な色調整と印刷を経て精巧な複製原画を制作する。2001年、マンガ「風と木の詩(うた)」「地球(テラ)へ…」などの作者で、京都精華大学元学長の竹宮惠子の発案により始まった。

「海の歌」©忠津陽子 イラストは「原画’」

 現在は京都精華大学国際マンガ研究センターと共同で研究を進めている。原画に残る傷ひとつも、時代背景や制作過程がうかがえる貴重な資料だという考えから、傷や汚れも含め、現状の原画の持っている情報をそのままアーカイブすることを目指す。

 監修者の竹宮による色確認と専門チームの画質調整を何回も重ね、原画と並べても見分けがつかないように作る。きれいに見せるために、傷や汚れを消すなど補正を加える他の複製原画と区別すべく「もうひとつの原画」という意味の「原画’」と名付けた理由もここにある。

 原画と変わらない精度を持ちながらも長期間の展示に耐えられることから、「原画’」は多くの展覧会で活躍している。光や水にも強く、場所を選ばない展示が可能なうえ、劣化や紛失の心配もないため、国内はもちろん、外国のマンガ展覧会にも制約なく出展できる。実際これまで、フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャ、オーストラリア、インドなど、10カ国以上の国で展示されてきた。

 「原画’」の意義はほかにもある。これまで本プロジェクトでは、作家26人の約850点が制作されたが、その中には、「原画’」の制作後、原画所有者の事情により原画そのものがなくなったケースや、原画の劣化が進み、公開が難しくなった例もある。原画はなくなることも、変わることもあるが、「原画’」はモノとデータが両方保管されるため、原画保存と記録にも役立っていると言える。

「走れ朝風」©東浦美津夫 イラストは「原画’」

 この「原画’」プロジェクトが21年で20周年を迎えることを記念し、京都国際マンガミュージアムでは「もうひとつの原画」展を開催する。本展では少女マンガ史を語る上で外せない4人のマンガ家、東浦美津夫、飛鳥幸子、ささやななえこ、忠津陽子の原画を元にした新作の「原画’」が公開される予定だ。他にも、ささやななえこの原画と「原画’」を並べて展示するコーナーもあり、来場者は「原画’」の精度を自分の目で確認できる。

 マンガ展の増加と原画のアーカイブ問題などが話題を呼ぶ中、見えないところでマンガ文化とマンガ研究をサポートしてきた「原画’」プロジェクト。その20年の軌跡をぜひご覧いただきたい。

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「もうひとつの原画」展のチラシ

 「もうひとつの原画」展は京都国際マンガミュージアム(075・254・7414、https://kyotomm.jp)で29日から来年4月6日まで開催。=朝日新聞2020年10月27日掲載