澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

『菖蒲(しょうぶ)狂い 若さま侍捕物手帖(てちょう)ミステリ傑作選』 城昌幸著 末國(すえくに)善己編 創元推理文庫 1540円

『信長の原理』(上・下) 垣根涼介著 角川文庫 各814円

『オランダ宿の娘』 葉室麟著 ハヤカワ時代ミステリ文庫 836円

様々な「仕掛け」を楽しむ歴史・時代小説三選。

 (1)柳橋の船宿に居候する姓名身分不明の侍、通称・若さまが持ち込まれた謎を安楽椅子探偵よろしく解決する「若さま侍捕物手帖」は、第二次世界大戦を挟んだ二十余年の間に約二百五十の短編が書かれたミステリーシリーズ。本書はその中から、津山藩の重宝と謎の和歌を巡る第一作「舞扇の謎」を含む二十五編を選(え)りすぐった決定版セレクト集にして、江戸捕物帳の系譜を知る上でも欠かせぬ一冊。シリーズへの愛情に満ちた編者解説も必読だ。

 (2)織田信長を主題とした歴史小説は数え切れぬほど存在するが、本作は幼い頃から周囲を観察していた信長が、俗に言う「働きアリの法則」を摑(つか)んでいたと設定した上で、信長個人の人生のみならず、彼を巡る組織に焦点を据えている。理想と現実の狭間(はざま)でもがき苦しむ信長と、彼に翻弄(ほんろう)される家臣たちの苦悩は痛々しいほどで、組織の中で揉(も)まれる現代人の胸をも打つに違いない。

 (3)日本橋のオランダ宿・長崎屋は、江戸に参府するオランダ商館長の定宿だった実在の旅籠(はたご)。本作は江戸には稀(まれ)なこの異国との窓口を舞台に、シーボルト事件などの歴史上の事件を解き明かす一方で、二組の若い恋人たちの運命や彼らを取り巻く人々の有為転変をも描き出す読みどころの多い作品。清冽(せいれつ)な武家小説、あるいは読み手に常識の再認識を迫る歴史小説を数多く残した著者には珍しく、ミステリー色が強い点にもご注目いただきたい。=朝日新聞2020年11月21日掲載