あらすじ

 高度経済成長期の日本で、預金高10位にランクされる阪神銀行のオーナー頭取、万俵大介(中井貴一)は、銀行のほかにも多くの事業を手掛ける万俵コンツェルンの総帥だった。万俵家には、大介の妻・寧子(麻生祐未)と、万俵コンツェルンを支える柱の一つである阪神特殊製鋼専務取締の長男・鉄平(向井理)、阪神銀行に勤める次男・銀平(藤ヶ谷太輔)、長女・一子(美村里江)、次女・二子(松本穂香)、三女・三子(福本莉子)のほかに、長く同居する大介の愛人・相子(内田有紀)の存在があった。相子は家庭内で大きな力を持ち、万俵家の閨閥づくりを推し進め、鉄平たちは疎ましく思っていた。さらに鉄平は、悲願としていた高炉建設の融資をめぐって大介と対立し、2人は確執を深めていく。

人が落ちていく過程をどう演じるか

――原作は上中下三巻にわたる長編小説ですが、怒りや悲しみ、憎悪、やるせなさといった様々な感情の渦に飲み込まれそうになりました。向井さんはどの感情を一番強く感じましたか?

 僕の場合は、ただ作品を読むというより自分の演じる役柄として読んでしまうので、どうしても鉄平の感情になってしまいますね。悔しさや憎しみみたいなものと、親であるがゆえに父・大介のことが許せない気持ちなど、ネガティブな感情も多いのですが、それが実際の感情なんだろうなと感じます。全体的にドラマティックではありますけど、その中にもすごくリアリティがあると思ったので、僕は原作を読んでいて「悔しい」という思いが一番強かったかもしれません。

 それにこの作品は群像劇だとも思うので、大介が主役とか鉄平が主役ということではなく、色々な人の目線で見ることで全然違う作品にもなり得るんです。登場人物一人ひとりをすごく粒立てて描いているので、一つの群像劇として見るとまた違う目線にもなるかなと思います。

――演じられた鉄平にはどんな印象を持ちましたか?

 今回に関しては原作ももちろん大事ですけど、台本に忠実にやるという意味で考えるならば、鉄平は本当に一本筋が通った人だなと思います。名前に「鉄」という字が入りますが、できたての鉄って、真っ赤ですごく熱いじゃないですか。そういう鉄のような熱さや、物事に真っすぐで猪突猛進で、正直な人なんです。だからこそ人に騙されるし、裏切られるんでしょうね。

 もちろんただ「熱い」というだけではなく他にも色々な要素があって、実際に鉄工所で撮影をしたのですが、機械から何からすべてのスケールが大きかったんです。そういうところで仕事をするのが日常だった人と考えると、ジェスチャーも自然と大きくなるんじゃないかなと思いました。西浦(正記)監督から「鉄平はマサチューセッツ工科大学に留学していたという事も意識してほしい」とも言われていたので、今回は割とボディランゲージも強めに取り入れて演じています。

 それに当時の日本と海外の関係性って、今とは全然違うじゃないですか。今は為替も100円、110円くらいですが、それが360円だった時代ですし、今では海外の大学に行くことは「あぁそうなんだ」っていう感じですけど、あの時代だとちょっとありえないくらい裕福な家庭の人にしかできない。脚本には「フランスでこんな料理を食べて〜」というセリフもありますが、色々と浮世離れしている中でも万俵家はさらに人並外れた一族なので、そういうところもいわゆる一般の常識が通じない人たちだから、ある程度のことは飛び越えて演じようと思っていました。

――『華麗なる一族』の象徴的なシーンでもある、万俵家恒例の志摩観光ホテルでお正月を過ごすシーンの中でフランス料理を食べていたというのも、原作ではさらりと読んでいましたが、あの当時ではあまり考えられないことですよね。

 今でも関西の財閥の人たちの中には、志摩観光ホテルで年末を過ごしていらっしゃる方が多いみたいです。山崎先生も毎年泊まっていらっしゃったそうなので、きっとその時見た光景を書いていらっしゃるのでしょうね。そういう人たちが実際、50年前にもいたんです。

 ドラマの冒頭、みんなで食事をしているシーンは、実際に志摩観光ホテルで撮影をさせていただきました。原作にも「陽が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞湾に華麗な黄昏が訪れる」といったシーンが描かれていますが、その描写の通り、英虞湾に沈んでいく夕陽を実際に見ることができました。こんな状況なので海外のシーンは日本で撮影していますが、実際に志摩に行かないと体験できないことを原作通り、台本通りにできたというのはいい思い出です。

――ドラマの公式サイトに掲載されている向井さんのコメントを拝見し、かなりの覚悟を持って今作に臨まれたことが伝わりました。その中で「万俵鉄平をどう演じるかというより、どう生きるかということを強く意識して臨もうと思う」と仰っていましたが、具体的にどんなことを意識されたのでしょうか。

 元々原作も有名ですし、これまでにも映像化されているので鉄平の最期を知っている人もたくさんいると思いますが、色々なことに巻き込まれて右往左往していって、人生の転落を経験する人を演じるというのは中々の覚悟がいることでした。その生き様というか、壮絶な人生の終わり方をする人を演じるというのは、やっぱり普通の生活をしていたらできないので。

 ある意味、僕の役柄としてのゴールはそこにあって、鉄平がどういう風に落ちていって、最期に向かう過程をどう演じていくのかが大切だと思っています。緩んだ顔をしていてはそういうシーンは撮れないので、プライベートとは完全に分けてそこに向かって落ちていけるのかというのは、原作を知っているだけに生半可な気持ちではできないです。

 自分にもプライベートな家庭がありますが、出来る限りのことを遮断しながら色々なことをそぎ落として、なるべく自分を追い込んでいく作業というのをしていかないと説得力が出ないだろうなと思っていたので、約4カ月の撮影の中でどこまで向き合えるのかということは、撮影に入る前からすごく意識していましたね。

親子だから許せない

――現在(2月の取材時)、まだ撮影は続いているそうですが、鉄平を演じるやりがいはどんなところに感じられましたか。

 登場人物がみんな欲望まみれで、色々仕掛けたり、だれかを蹴落としたりハメたりする中で、唯一ではないですが、鉄平は割とポジティブというかまっすぐにいられるキャラクターでもあったので、この作品の中では異質だと思うんですよ。今僕らが言う「当たり前」だとか「まっすぐ、正直」ということがこの作品の中では逆に異質で、それは役柄としてすごく大きいですし、やりがいもありますね。あとは単純に、ハードルがとても高く難しい役なので、これはやるべきだなと思いました。

――ドラマの予告映像に「親子の間にだって許せないことがある」という鉄平のセリフがありましたが、大介と鉄平を通して親と子の関係について何か思うところはありましたか?

 生まれや育ちもそうですが、父親である大介の私生活もなかなか理解できない部分があるし、万俵家の人々はそれこそ「華麗なる」特殊な一族なので、自分と照らし合わせることはあまりないですね。だけど、親子の間でも秘密はあるし親子だからこそ逆に許せないことがこの作品にはたくさんあって、それは「親子でも許せない」と言うより「親子だから許せなかった」という意味なのかなと思いますし、それってすごく執着しているからだと思うんです。その執着って結局は嫉妬だったり、親としては子どもに尊敬されたい、子どもとしては親にこっちを向いて欲しい気持ちは幼い頃からあると思うし。

 僕の勝手な解釈ですけど、親子の間で「許せない」と思うのは、お互いをすごく意識しているからこそ執着し合うので、どちらも、親離れ・子離れできていなかったのかなと、この親子に関しては感じました。それがまた切ないというか、お互いがもっと独り立ちしていればここまでこじれていなかったと思うので、逆に言うともっと良い親子にもなれたんだろうし。どこかで歯車が狂ったことでこうなってしまったというのは怖いですよね。

――執着するから傷つくし苦しむ。そこが親子関係の難しさなのかなと感じました。

 そうですね。原作通りにというか、台本通りにやるのが僕らの仕事ですけど「こうだったら親子関係もまた違うのにな」と思うことは、毎シーン毎シーンあります。

――向井さんといえば、大河ドラマ「麒麟がくる」での足利義輝役も記憶に新しいですが、義輝も鉄平もすさまじい宿命を背負った男性です。この2人を演じられて、それぞれの生涯や生き様をどう感じましたか。

 僕は歴史についてすごく詳しいわけではないので、実際の足利義輝という人がどういう人かは台本上でしか表現できないのですけど、足利家は15代も続いた家柄で上流階級の教えを受けて育っているから、佇まいや立ち振舞いに気品がないと当時の将軍というエリートを表現するのは失礼だと思って演じました。セリフもそうですが「なるべく綺麗にいなきゃ」という意識はしていましたね。歴史は繰り返されるということはどこか分かってはいたので、義輝も自分の行く末みたいなものは何となくは分かっていたからこそ、後半は特に心が空っぽのような人になっているんじゃないかなと思い、なるべくそういう表情であったり仕草であったりは意識していました。

 鉄平は自分の運命は知らなかったにしても、色々なことに巻き込まれて策略にはまっていくという点では、没落する足利将軍家と似ているところはあるのかなと思います。最初に言ったように、今回の鉄平は熱くて真っ直ぐな男ということもあり、良くも悪くもバカ正直なので、「だから兄さんは騙されるんだ」みたいなことを弟の銀平に言われるんです。冷静に台本を読んでいくと「ちょっと経営者に向いていないな」と思うところもあるのですが、前しか見ていない人だからこそ、それを補うくらいの熱量とパワープレイでいけばいくほど、翻弄されていく人になるんだろうなと思いました。

ドロドロとした物語が好き

――これまでに『新しい靴を買わなくちゃ』『きいろいゾウ』などの原作実写化にも多く出演されていらっしゃいますが、普段、読書はされますか?

 最近はちょっと忙しくて読めていないんですけど、元々読書は子供の頃から好きでした。最初の緊急事態宣言の時は仕事もなかったので、新しく本を買うのも良かったのですが、あえて家にある一度読んだ本をもう一回読み返してみようと思いました。

 僕は割とリアリティのあるドロドロとした内容が好きで、桐野夏生さんや東野圭吾さんの作品をずっと読んできました。あとはパラレルワールドですけど、村上龍さんの『五分後の世界』や、ジャンルは違いますが森見登美彦さんの作品もよく読みます。森見さんの作品は映像・実写化しにくいところが面白くて、活字の強さを最大限に発揮しているという意味で、頭の中の想像力を刺激する描き方をされるんですよね。

 具体的にこういう感じで〜と読むよりも、自分の中で想像させるともっともっと膨らんでいく。そういう人間の無限の想像力を刺激してくるので「読み物ってこうだよな」ということを改めて思い直すような作品が多いです。

――こんなにポンポンと作家さんのお名前があがるとはかなりの読書家とお見受けします! ぜひおススメの作品を教えてください。

 その人の趣味にもよりますが、気軽に読める作品だったら森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』とかですかね。僕は森見さん作の中だと『有頂天家族』が一番好きです。主人公がたぬきっていう時点で面白いんですけど(笑)。森見さんは実際京都大学に通われてその後作家さんになられているので、京都の街並みを描いたシーンを読むと「先斗町のこの角を曲がったらこの道があって〜」とそこに行ったことのある人なら分かるような緻密さで「そうそう、確かにこうなっている!」と思いながら読めますよ。

――では最後に、向井さんが読書から得ることを教えてください。

 活字って想像するしかないと思うんですよ。僕は想像力を働かせて読むことが好きですし、上質な読み物というのは読んでいる人をその世界に引き込む力があると思うので、作中に出てくる食べ物であったり、世界を旅したり、一番手軽に疑似体験できるのが読書だと思っています。例えばコメディものを選んだ後にミステリーを読んでも、それぞれ別の世界に連れて行ってくれるのが読書の魅力かなと思っています。

お話を聞いた⼈向井理(むかい・おさむ)

1982年生まれ。神奈川県出身。2006年にドラマ「白夜行」でデビュー後、「アキラとあきら」「S−最後の警官−」、NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、映画「きいろいゾウ」「いつまた、君と 〜何日君再来〜」、舞台「美しく青く」など、多くのドラマ・映画・舞台に出演。2020年大河ドラマ「麒麟がくる」では、第13代将軍・足利義輝を演じた。
公式HP 

インフォメーション「WOWOW開局30周年記念 連続ドラマW 華麗なる一族」

4月18日(日)午後10時〜WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドで放送・配信スタート。※第1話無料放送(全12話)。西浦正記監督。前川洋一脚本。山崎豊子原作。中井貴一、向井理、藤ヶ谷太輔、麻生祐未、内田有紀ら出演。
ドラマ公式サイト