澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

『新選組の料理人』 門井慶喜著 光文社文庫 792円

『利休の死 戦国時代小説集』 井上靖著 中公文庫 946円

『室町もののけ草紙』 岩井三四二著 集英社文庫 880円

 激しく推移する時代を追体験できる三冊。

 (1)本作の舞台は幕末・京都、料理の腕ゆえに新選組に引きずり込まれた男を主人公に据えた連作短編集。新選組といえばその非情や思想信条を題とする小説が多い中、武術にしか能のない男たちが寄り集まれば当然、食事を巡る騒動も起きたはずとの着眼点が面白い。彼らの体と心を満たす主人公の眼(め)を通じて、幕末の混沌(こんとん)と隊士たちの喜怒哀楽が描かれているばかりか、時にはあっと驚く謎まで解明される。なお著者は、並の隊士のみならず間者、馬術師範、事務方などを通じて新選組を描いた『新選組颯爽録』も上梓(じょうし)しており、併せて読むのもお勧めだ。

 (2)桶狭間の戦から千利休の死までを描く十一編を通じ、戦国時代約三十年を駆け抜けられる文庫オリジナル短編集。時代順に並ぶ作品によって激動の時代を分かりやすく追えるとともに、ことに武田信玄の娘・松姫を主人公とする「信松尼記」、織田信長の姪(めい)・小督の最初の夫が主人公の「佐治与九郎覚書」などからは、歴史の敗者にも向けられる著者の細やかな眼差(まなざ)しがしのばれる。戦国期に馴染(なじ)みのない方は無論、同時代を捉え直そうとする方にもぜひお読みいただきたい。

 (3)混沌の室町時代末期を生きた貴賤(きせん)さまざまな人々を、いたわり深い眼差しで捉えた短編集。現代より遥(はる)かに闇が深かった時代に蠢(うごめ)くもののけたちの姿は、その存在に慄(おのの)く老若男女の哀歓を際立たせ、更には「人間とは」という変わらぬ問いを我々に投げかけてくる。=朝日新聞2021年3月20日掲載