お話を聞いた⼈笹沼颯太(ささぬま・そうた)

東京大学経済学部3年生。筑波大学附属駒場高等学校卒業。教育に読書を取り入れる分野で第一人者の澤田英輔氏の指導を受ける。英語多読講師の経験も活かし、2020年4月に中学以来の友人と「Yondemy」を起業、同年12月に「ヨンデミーオンライン」のサービス提供を開始。

「ヨンデミーオンライン」とは?

5〜14歳の子どもを対象に、一人ひとりの興味や読書力に合わせた選書や、読書環境のアドバイス、読書内容のアウトプットなどをサポートしている。このサービスを始めたのは、現役の東京大学の学生たち。塾講師をしていた頃、親から「うちの子は読書が苦手なのですが、どんな本を読んでましたか?」とよく相談を持ちかけられたことが、きっかけのひとつとなっている。

「お気に入りの一冊と出会う」のが第一歩

――読書が好きになれない子というのは、好きな子と比べてどんなところが違うと思いますか?

 本が好きな子というのは、どこかで「お気に入りの一冊と出会う」という体験をしています。この本ならおもしろい、もっと読んでみたいと感じることが、本好きになる第一歩です。でも、その子の好みにピタッとはまっていて、難しさのレベルも適切でないと、その本にのめりこむことはできません。

 本をほとんど読まない子というのは、まだぴったりの本と出会っていないだけだと、私は思っています。親御さんが読ませたい本と、お子さんが読みたい本とのズレもあって、「読書=勉強」のようなイメージを持っている子が少なくありません。保護者に言われて読まされているうちに、本をネガティブなものとして警戒するようになってしまった子もいます。私たちは、もっと気楽に本を手に取ってもらいたいと思い、「ヨンデミーオンライン」というサービスを立ち上げました。

――本を読む習慣がない子に、どうアプローチしていくのですか?

 ただ大人が読んでほしい本をすすめるというのではなく、お子さんを主体に考えます。まず、事前にアンケートを行って読書傾向などを把握したうえで、おすすめの本を提示して、感想を教えてもらいます。はじめは「おもしろかった」「話が長すぎた」などの選択肢に答えるだけで十分です。つまらなかったという感想も大切で、読書感想文を書いてほしいのではなく、その子が「夢中になるほど楽しい」と思える本を届けるために、どんなことに興味があるのかを知り、提案する本を絞っていくことが目的だからです。

 よく「〇歳向き」などと対象年齢が書いてある本があるのですが、そういう年齢には一切しばられないほうがいいと思います。読書と向き合うためには、ただ年齢に合った本を与えるのではなく、その子の視点から本をマッチングさせることが重要です。そのために、物語の構成要素など細かくデータ化し、全国の司書さんと共同で1000冊以上の児童書を独自に分析しました。そのデータと子どもの実際の声とを照らし合わせて、次の本をおすすめするようにしています。もちろん選書だけでなく、本の楽しみ方やモチベーションの維持についてもサポートしています。

「ヨンデミーオンライン」のサービスイメージ(ヨンデミー提供)

――実はうちの子どもも、ヨンデミーを体験させていただきました。本が好きなので、『長くつ下のピッピ』や『金色の足あと』『声が聞こえたで始まる七つのミステリー』などをおすすめいただきました。普段読まないようなジャンルだと最初はひるむのですが、そのまま気が進まないものもあれば、読み始めると止まらないものもありました。

 1回目におすすめする本はお試しの部分が大きくて、その反応を見てどんどん選書の精度を上げていきます。はじめはお子さんの好みに合わなくても、それを基準に、もっと難しい言葉の本でもいけるのか、もっと短い本にするか、調整しています。

 実は「ヨンデミ―オンライン」を受講しているのは、半分は本が苦手な子、でも半分は本が好きな子です。読書はするけれど、恋愛ものに偏っていたり、読み聞かせは好きだけれど、自分一人では読めないでいたりする子もいます。

 学年によっても人気のあるジャンルというのがあって、たとえば低学年だったら動物が主人公のもの、高学年になると魔法が出てくるものが好き……といった傾向があるんです。だからいま出版されている本もそこに偏りがちです。でも、そのジャンルが好みの子ばかりではありません。たとえば伝記が好きな子が、低学年のうちに読める伝記ものの本ってほとんどないんですよ。成長してやっと読みたい本が出てきたので、読書が好きになったという子もいます。

――自分から本を読むようになるには、よく売れている本を与えていくだけでは難しいのですね。

 そうですね。特に文字の多い本へ移行する時期は、たとえ読み聞かせでは楽しめていた本でも、いきなり一人で読めるようにはなりません。言語の理解力を上げるには、はじめは短い本を読み切る体験をして、そのレベルのまま、本の「長さ」を伸ばしていくという方法が有効です。難易度をステップアップさせるときも、8割方は理解できる本をすすめてみて、難しくて読み切れなさそうなら、1回レベルを戻すことも大事なんです。この繰り返しを重ねていくうちに、本の楽しさに気づき、あるとき理解力がぐっとのびる瞬間に出会えます。

生活習慣とセットで読書の時間を作る

――いまの子どもたちは、刺激的なデジタルコンテンツに夢中になる子が多い傾向があります。読書の時間を作るにはどうしたらいいでしょうか?

 確かに、子どもたちにとって、ゲームやYouTubeは手軽で楽しいですよね。「そんなことより、本を読みなさい」と言われても、お子さんはやらされている感が否めません。だから私たちは保護者の方に「毎日生活のリズムとしてやるようなこととセットにして、読書時間を作ってください」とお願いしています。

 たとえば寝る前に本を読む時間を10分作ってもらって、そのときはどんな本を読んでもいいですし、最初の数ページをパラパラするだけでもOKとします。そういうふうに、強制する部分と、お子様が主体的になれる部分を、両方とも混ぜる形でアプローチしてくださいとお伝えします。数ページ読んでみて、おもしろかったらそのまま読み進めますし、つまらなかったらその時点で「ヨンデミーオンライン」に感想を提出してもらいます。「この本は苦手だった」と答えてくれたら、別の本をおすすめできます。

 そういうコミュニケーションを取っていくと、はじめは読書が苦手でも、1〜3カ月ぐらいで変化が現れることが多いです。最初は本を見るのも嫌だった子が、パラパラと開くようになって、自分から本を取るようになったと聞くと、やっぱり嬉しいですね。

――東大生が本をすすめてくれるとあって、読書が勉強に繋がることを期待する保護者の方もいらっしゃいますか?

 そうですね、保護者の方が読書の重要性を感じる理由として、子どもと会話をしていて成長が感じられないという言語面や、算数の問題の読解力がなくて解けないといった学力面での不安があります。ベネッセ教育総合研究所の調査でも、読書量が多い子の方が、学力偏差値が2.6ポイント上がったという結果があるんです。また、本のジャンルを幅広く読んでいる方が、より伸び率が高くなったこともわかっています。

 国語だけでなく、どの教科にも問題を読み解く力は必要です。新しいことを学ぼうと思ったときに、読解力があるだけで学ぶ力が上がります。読書で培ったものは、大人になっても一生涯役に立つと思っています。

――子どもも大人も、家にいる時間が増えている今だからこそ、新しいことを始める人が多く見られます。本と向き合う時間も増えてくるかもしれませんね。

 お子さんも余裕を持てる春休みなどに、家族全員で読書を習慣づけられたら理想的ですね。生活に、読書が「入り込む」ことが大事だと思っています。寝る前やご飯の後など、生活の一部になれば、学校が始まってもそのまま続けやすいですよね。

 もちろん保護者が本好きで、家族が熱心に読んでいるからお子さんも興味を持つというパターンは多いですが、それを強制するわけではありません。本に限らず、誰かが何かを楽しんでいる姿を見れば「あれは楽しそうだ、やってみたい」と思います。親だけでなく、代わりに私たちや、同じ本を読んだ子たちと交流することで、本の楽しさを共有できることが一番いいと思います。誰であっても絶対楽しい本は見つかる、そして本は人生を豊かにしてくれるというメッセージを、いろんな形で伝え続けていきたいと思っています。