北原睦朗

きたはら・むつろう 1959年東京都生まれ。82年中央大学経済学部卒業、大同生命入社。T&Dホールディングス専務などを経て、2020年より大同生命副社長。妻と愛犬フクちゃんの“3人”暮らし。

“社会の公器”たる生命保険会社として

 大同生命は、明治から大正期にかけて活躍した実業家・広岡浅子らが1902年(明治35年)に創業。広岡浅子は、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』(2015年度後期)のヒロインのモデルとなったことでも広く知られています。

 大同生命が創業当時から一貫して掲げてきた社是は「加入者本位・堅実経営」。この社是を礎に“社会の公器”としての役割を果たしてきた同社は、同業他社に先駆けて、1970年代に“中小企業をお守りする”という独自のビジネスモデルを構築しました。以来、様々な保険商品・サービスの提供を通じて、中小企業の成長・発展に貢献しています。

――これまでの経緯をお聞かせください。

 1970年代に入るまで、当社を含めた多くの生命保険会社が、保障と貯蓄を兼ね備えた「養老保険」を主力商品としていました。しかしこの商品は、保障を重視する商品に比べ保険料が高額となるため、大きな保障を必要とする経営者は加入しづらいというデメリットがありました。

 そこで当社がこの問題を何とか解決しようと提携団体とともに開発したのが、より安い保険料で大きな保障が得られる「定期保険」を中心とした商品でした。中小企業は、大企業に比べて資金や人材などの経営資源が限られている場合が多く、財務基盤も必ずしも盤石ではありません。そのため、経営者に万が一のことがあった場合には、すぐさまに事業が継続できなくなるリスクがあります。

 保障の提供を通じて経営者をお守りすることが、中小企業で働くすべての方をお守りすることにつながり“社会の公器”としての大きな役割を果たすことができると考えたのです。

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――具体的にはどのような商品があるのですか?

 経営者が万一の場合のリスクとして「死亡リスク」と「就業不能リスク」の大きく二つがあります。後者は、経営者がガンなどの重大疾病や重度の身体障がい状態となってリタイヤを余儀なくされるリスクです。現在は医療技術の進歩により、大きな病気も治る時代となっていますが、治療が長期化することで職場復帰に時間を要すると、経営に深刻な影響が及ぶケースもあります。

 当社は、経営者のこうした様々なリスクに対応する商品に加え、従業員の福利厚生制度として活用いただける保険商品もご提供しています。

――生命保険以外にも様々な付加サービスがありますね。

 当社では、中小企業が一社単体で対応することが難しい経営課題について、その解決にお役立ていただける各種サービスを『経営支援』『健康支援』の観点からご提供しています。

 例えば『経営支援』サービスとして、災害発生時に従業員の安否をスマートフォンなどで確認できる「安否確認システム」をご提供しています。また、『健康支援』サービスとして“健康経営”の実践をサポートするプログラム「KENCO SUPPORT PROGRAM」をご提供しており、ご好評を得ています。

コロナ禍のなか生命保険を通じて少しでも経営者に安心を

 2020年、世界で拡大した新型コロナウイルス感染症は、中小企業の経営にも大きな影響を及ぼしています。大同生命が全国の中小企業経営者を対象に毎月実施しているアンケート「大同生命サーベイ」(2020年12月度調査)では「2020年は経営環境が悪かった」と回答した企業が54%となり、調査開始(2016年)以来、初めて「良かった」を上回る結果となりました。

――どの業種もいまは苦しいときですね。

 今回のような状況では、平時よりも、経営者が病に倒れてしまう可能性は高まると考えられます。そのようななかで当社ができることは、まず“保障を途切れさせない”ということです。例えば、経済的に保障を継続することが難しい場合は、保険料負担がより小さな商品への切り替えをご提案させていただきます。そのような形で、従業員一人ひとりがお客さまの声に耳を傾けながら、お客さまとともに最適な方法を考えるよう徹底しています。

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――中小企業の生命保険市場のなかでもトップクラスの契約高を持つ大同生命。だからこそ、コロナ禍での対応の早さに注目が集まりましたね。

 売り上げの低下などによる急な資金需要に対応するため、契約者貸付の利息を免除する特別取扱を実施したほか、従業員の雇用継続に悩んでおられる経営者にお応えできるよう、雇用調整助成金に関する相談窓口も設置しました。また、新型コロナウイルス感染症に罹患(りかん)された場合は、病院への入院に限定せず、医療機関・保健所等から指示のあった施設で療養した場合も、入院給付金をお支払いする取扱としています。

――justInCase社とのプロジェクトは、記者発表もされました。

 当社が保険料相当額の基金(上限1億円)を拠出することで、justInCase社の「コロナ助け合い保険」を中小企業の皆さまに1年間無償提供する取り組みです。これは『中小企業の皆さまのために少しでもお役に立ちたい』という両社の思いが一致することで実現しました。なお、ご支援の幅が広がるよう、justInCase社は保険契約から生じた利益を医療従事者に寄付します。

事業承継など様々な問題に多彩なアイデアで対応

 先ほどお話のあった「大同生命サーベイ」の2020年9月度調査では「事業承継をしたい」と答えた経営者の割合が58%と、コロナ禍以前に比べて15ポイントも減少しました。後継者不足などにより従前から“社会課題”となっていた事業承継問題は、新型コロナウイルス感染症への不安の影響から、ここへ来て一気に大きく拡大してきている可能性があります。日本企業の9割以上を占める中小企業の事業承継が進まなければ、未来の日本経済に大きな影響を与えることになるかもしれません。

――大同生命は、中小企業の事業承継問題に、どのように向き合っているのでしょう?

 高度な専門知識を有する当社の専任コンサルタントが保険活用等のアドバイスをさせていただくほか、提携先との協働によるご支援もおこなっています。例えば、中小企業経営者が相続・事業承継準備で、生命保険以外の対策(不動産・融資・信託・M&A等)を必要とされる場合は、当社の提携先が持つ最適なソリューションをご提案させていただくなど、総合的なご支援をおこなっています。

――刻々と状況が変わるなか、大同生命は、お客さまが求めるサービスをタイムリーかつスピーディーに提供されている印象です。社内ではどのような努力や工夫をされているのでしょう?

 “いま、このタイミングで中小企業のお役に立つには何が必要か?”を従業員一人ひとりが考え、積極的に提案・実現していくことが大切だと思っています。当社では、年に1回、経営陣などに対して各組織の取り組みを発表・表彰する「サミット」を開催しています。一人ひとりのチャレンジが評価されることは、従業員のやりがいにつながりますし、それによって、多様なアイデアに自由に意見を言い合える“風通しの良い風土”が醸成されていると感じています。

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――このコロナ禍で、お客さまはもちろん、社員同士であっても直接コミュニケーションを取るのが難しくなっています。このあたりは“風通しの良い風土”にどのような影響を及ぼしていますか?

 DX時代を見越して、当社はかなり早い段階からテレワークを推進しており、2017〜19年にかけて「テレワーク先駆者百選(総務省)」「テレワーク推進賞(日本テレワーク協会)」「輝くテレワーク賞(厚生労働省)」を受賞しています。そのため、新型コロナウイルス感染症が拡大した際にも、多くの従業員がスムーズにテレワークを利用することができました。電話やオンライン会議が中心になるなど、手段は大きく変わりましたが、従来以上にコミュニケーションが活性化しており、社内の風通しがより一層良くなったと感じています。

ディスプレイが間にあっても私たちにとっては“対面”

――これからのDX時代、お客さまとのやり取りはどう変化していくと考えていますか?

 世の中にはスマートフォンひとつでご契約が完了する生命保険も登場していますが、どれだけIT化が進んでも、当社のビジネスの基本は“対面”です。ディスプレイを介していても「丁寧にコンサルティングをおこなう」ということに変わりはありません。社内では「オンラインでのやり取りではお客さまに寄り添った対応が難しいのではないか」といった声もありましたが、実際にリモート手続を開始すると、多くのお客さまから「実際に会って手続きしているのと変わらないね」という声をいただいています。

――DXによって事務手続きも簡略化される時代になると、従業員の負担もさらに軽減できそうですね。

 事務手続きについては、人が介在する余地を可能な限りなくしていきたいと思っています。例えば、中小企業の従業員の方が生命保険に加入する際に対面で実施していた「健康状態の告知」について、スマートフォン上で実施いただける “つながる手続”という仕組みを昨年10月に導入しました。これにより、例えば海外に赴任している従業員の方もスムーズに手続きいただけるようになりました。今後は、ご契約からお支払いまでのすべての手続きについて、可能な限りオンラインでおこなえるようにしていきたいと考えています。

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――中小企業の経営者のなかには、DXの波に乗れるか不安を感じている方も多いのではないでしょうか?

 そうですね。今後は中小企業もDXに向き合っていかざるを得ない時代になると思います。そういう新たなチャレンジを積極的におこなっていくことも、会社を存続させるために必要なことではないでしょうか。当社がそうしたDXを直接ご支援させていただくことは難しいかもしれませんが、その分野の専門家や企業への橋渡しをさせていただくことなども、検討していきたいと考えています。

社長としての一番の仕事はお客さまのご契約を守ること

 「加入者本位・堅実経営」という創業以来の社是を脈々と受け継ぎながら、中小企業経営者を支え続けるために、新しい変化も重ねてきた大同生命。令和の時代となって初めてそのバトンを受け継いだ北原氏が目指すものとは何なのでしょう。

――最後に社長としての抱負をお聞かせください。

 当社には、生命保険会社として、何十年にもわたってお客さまをしっかりとお守りし続ける責任があります。長いご契約期間中に当社の社長が何代かにわたって交代することとなりますが、『しっかりとバトンをつないで一人ひとりのお客さまをお守りしていく』、それが生命保険という事業だと考えています。

 『不易流行』という言葉のとおり、当社は、広岡浅子らが掲げた「加入者本位・堅実経営」という社是を変わることなく受け継ぐ一方で、時代に応じた新しい変化を重ねて参りました。

 これまで当社の役職員がつないできたバトンをしっかりと受け継ぎ、中小企業とそこで働くすべての方をお守りし“社会の公器”としての役割を果たしていけるよう、次の世代にバトンを引き継ぐことが私の一番大切な仕事だと考えています。