お話を聞いた⼈BLABLA(ぶらぶら)

1992年生まれのラッパー/ビートメイカー/DJ。2020年にVue du monde(ヴ・ディ・モンドゥ)、m-al(マル)とのユニット・PACK3で1stアルバム「PACKQAGE」を発表した。BLABLAはPACK3に加え、Groove Factory、Flex da 9th、MANOSにも所属している。さらに映像クリエイター集団・Lady Purpで、owlsのMVも手がけた。20年3月までファッション誌「GRIND」の編集者としても活動していた。21年5月にはPACK3としてのインスト・アルバム「PACKQAGE (Instrumentals)」を発表。

アレックス・シアラー「青空のむこう」

 BLABLAは日本生まれだが、ものごころつなかいうちに渡米し、小学生の低学年までニューヨークで過ごした。当時の印象的な読書体験を振り返ると、最初に思い出すのは『ハリー・ポッター』(英語版)。内容はともかく、分厚い本を苦労して読み切る達成感が楽しかったと話す。彼にとって、読書は映画やゲームのような、数あるエンターテインメントと並列した存在だった。その後、BLABLAは両親の仕事の都合で帰国する。

 「日本の小学校に転入したんです。日本文化に早く慣れたかったし、なんならクラスの人気者になりたかった(笑)。ニューヨークにいた時は、学校で英語、自宅では日本語を使っていました。だから自分的には日本語もしっかり喋れるつもりだったんです。でも日本に帰ってきたら、僕の言葉は全然みんなに通じなくて。今思えば、英語と日本語の単語と文法がぐちゃぐちゃに混じっちゃってたんです。だから逆にクラスで浮いた存在になっちゃいました。そこで悩んでたら、母が日本語の本を何冊かプレゼントしてくれたんです。当時の僕にとって日本語の文章はとにかく難しかったので、ほとんどの本は1〜2ページで脱落したけど『青空のむこう』だけは唯一興味を持って読むことができました」

 『青空のむこう』はイギリスの作家アレックス・シアラーによる児童文学作品。事故で急死した少年が現世に戻ってきて、自分の死後の世界を見て回るというストーリー。翻訳は金原瑞人だ。

 「まずこの本は漢字がほとんどなくて、文字もデカく、口語が多い。児童文学だから難しい言葉もない。『生と死』という難解なテーマを扱っていて神秘的な表現も多いけど、マンガみたく読み進めることができました。これはたぶん翻訳が素晴らしいからだと思います。情景描写がすごく良くて、読むとすぐにシーンがイメージできる。当時、子供ながらに泣きましたし。読書をしてて、生まれて初めて『終わってほしくない』と思うくらい没頭しました」

 金原瑞人といえば、Riverside Reading Clubの連載でもおなじみの日本を代表する翻訳家。英語と日本語が混じってしまったBLABLAにとって、この本が日本語の先生になった。

 「『青空のむこう』は大好きすぎて英語版も読みました。でも僕は日本語版の雰囲気のほうが好きです。ちなみに今日持ってきたのは、当時母からもらったもの。もうボロボロ。中も鉛筆でいっぱい線を引いてある。実は小学生の時、この本で読書感想文を書いたんです。日本語で文章を書くとなると、また別に苦労があったけど、早く日本語を覚えたかったし、クラスにも馴染みたかったからものすごく頑張りました。そしたら賞をもらえたんです。認められた感じがしてすごく嬉しかった。『青空のむこう』は僕の原点です」

夏目漱石「こころ」

 『青空のむこう』の感想文が評価されて気を良くしたBLABLAは、スケートボードやヒップホップといったストリートカルチャーとともに、明治や大正時代の日本文学にも魅了された。

 「最初は完全にかっこつけですけどね(笑)。志賀直哉とか、このへんの作家の作品は表紙を今っぽくして、現代語訳したのも出てるけど、そっちじゃなくて、あえて自分とは遠い世界観の古い表紙で、当時の文体で書かれてるほうを選んで読みました。言葉の意味も言い回しも難しくて、なかなか読み進められなかったけど、何回も何回も読んでたらだんだんわかるようになってきて。いつのまにか大好きな本になってた」

 もともとイングリッシュスピーカーで、日本語を「学ぶ」経験をしたBLABLAにとって、夏目漱石は日本語の使い方がカッコいいと思える存在だった。

 「夏目漱石は言葉が綺麗なんです。心情、状況、情景を日本語で表現するのに『こんな言葉を選ぶのか』ってびっくりしました。『青空のむこう』にも通じることですが、僕は美しい情景描写をした文章が好き。実は『PACKQAGE』でも、夏目漱石の表現をリリックに落とし込んだりもしています。これはたまたまなんですけど、『こころ』も死がテーマになってるんですよね。当時は『こころ』で死んだ人は『青空のむこう』の世界に行くのか、みたく思って読んでました(笑)。書かれた時代も、国も違うけど、意味さえわかれば、自分の中で共有できるのが面白い」

 さらにBLABLAはストリートカルチャーの目線から、当時の作家たちのクリエイティビティにも共感している。

 「夏目漱石といえば、現代ではお札になるくらい有名な人で、いわゆる“作家の大先生”というイメージだけど、彼の人生はどちらかというと、自分がかっこいいと信じる世界を極めるために生きた人って感じがする。大学の講師だったのに、辞めて朝日新聞に小説記者として入ったり、日本に“浪漫”って言葉を広めたり。これって、今、日本のラッパーが海外の言葉をたくさん日本語に翻訳してるのと同じアティチュードだと思う。“ディスる”とか普通に定着してますし。そういう視点で当時の作家を振り返ると、むしろ“大先生”ではなくこっち側の人たちなのかなって気がしてます」

「Kenshi Shiroma DANPACHI Style Book」

 最後はBLABLAが編集者として参加した写真集『Kenshi Shiroma DANPACHI Style Book』。そもそもBLABLAはどういう流れで編集者になったのだろうか。

 「この仕事をするようになったのはたまたま。バイトを探してたら『Ollie』というスケボーのカルチャー誌で求人を見つけたんです。当時の僕はスケートはもちろん、ラップもDJもやってて、『Ollie』にはそういう情報がいっぱい出てたから、『会社は家からも近いしちょうどいいな』と思って応募したら受かりました。でも出社したら『Ollie』じゃなくて『GRIND』というファッション誌の配属だったんです(笑)」

 「GRIND」は「Ollie」と同じミディアムという出版社から発行されていた。

 「当時の僕はファッションのことなんて何も知らなくて、なんなら『スタイリストなんてただ服を選んで着せてるだけでしょ』くらいに思ってました(笑)。でも職場の人たちはかっこいい誌面を作るために命をかけてた。その姿にものすごく影響を受けて、ファッションと編集を一から勉強しました。仕事はすごく大変だったけど、自分にとってはとても充実した時間でしたね」

 だが「GRIND」と「Ollie」は運営会社の倒産に伴い、2020年3月に廃刊となった。両誌は運営母体を移管して同年秋には復刊を果たしたものの、BLABLAはフリーランスのクリエイターとしての人生を歩むことにした。そして『』に参加することになる。

 「この本を企画した城間大輝は元『Ollie』の編集者で、同い年ということもあり『GRIND』時代からずっと仲が良くて。この本は彼の同郷の先輩で、日本を代表するバーバーであるMr.KENSHIこと城間健士さんのスイタルブックです。ケンシさんには僕自身も『GRIND』の頃からお世話になっていて、今でもずっと髪を切ってもらっています。ものすごくかっこいい人なので、この企画に呼んでもらえたのはすごく嬉しかった」

 Mr.KENSHIはバーバーショップ「MR.BROTHERS CUT CLUB」の創設メンバー。『Kenshi Shiroma DANPACHI Style Book』は、彼のハードコアでソリッドで、同時に洗練された雰囲気も同居する唯一無二のスタイルをインパクトあるビジュアルで表現した作品。Mr.KENSHIの顧客である舐達麻、NORIKIYO、Rykey、JNKMN、仏師、阿修羅MICら錚々たるラッパーたちがモデルを務めている。

 「このメンバーが揃うのはケンシさんだから。見せ方や構成はダイキと二人でかなり考えて、海外の人が見てもわかるように、あえてテキストは少なくして、強いビジュアルを全面に打ち出すことにしました。カメラマンは『GRIND』の時からお世話になってる森健人さん。ファレルやタイラー・ザ・クリエイターも撮ってる大先輩で、今回もすごい写真をたくさん撮ってくれた。さっきも言ったけど、僕は美しい描写が好きなんです。それは写真にも同じことが言える。見た瞬間に現実を忘れて、そこに浸れる。あくまで僕個人の感覚ではあるんですが、今日紹介したすべての本に共通していることです」

 側頭部から後頭部を鋭く美しいスキンフェードで刈り上げたヘアスタイル。そこからのぞくインパクトある頭皮のタトゥー。シンプルだが力強いポートレートと、美しくアブストラクトなロケ写真を中心に構成されている。

 「モデルの誰かが目立つのではなく、あくまでケンシさんの世界観が残るような作りを意識しました。撮影は1日2〜3組。朝、モデルが現場に到着して、ケンシさんが髪を切って、用意した洋服を着てもらい、どんなバイブスになったかを見て、フリースタイルで撮って、最もかっこよくなる瞬間を引き出していきました。もちろん事前に何ヶ所もロケハンをしてて、服も仲間のスタイリストに何パターンか用意してもらっていたけど、決め込むのではなく、重視したのはその場のノリ。撮影地はすべて東京近郊ですが、意図的に匿名性の高い雰囲気にしました。そういう見せ方もこれまでの経験があったからこそだと思っています。即興と計画を織り交ぜて、絶妙なバランス感で形にすることができました」

 音楽、編集、映像などさまざまなクリエイティブを並列で捉えるBLABLA。根幹にあるのは「自分がかっこいいと信じる世界を極める」気持ちだという。

 「制作は大変だったけどまったく苦にはならなかった。かっこいいと信じたものを突き詰めて、形にすると最終的にみんな幸せになれる。本でも映像でも音楽でも。だから僕はずっと音楽も他の仕事も切り離さず同列に考えてきました。好きなことをやるっていうのが、すべての根本にある。今後もいろんな形で自分がかっこいいと思うものを作品として表現していきたいと思っています」