お話を聞いた⼈澤田晃宏(さわだ・あきひろ)

1981年生まれ、兵庫県神戸市長田区出身、兵庫県淡路島在住。「週刊SPA!」「AERA」 などの週刊誌編集者、記者を経て現在フリーランスのジャーナリスト。専門は日本とアジアの高卒者の就職について。進路多様校に特化したフリーマガジン『高卒進路』(ハリアー研究所発行)編集長。著書に『ルポ 技能実習生』(ちくま新書、2020年)。ツイッターアカウントは@sawadaa078。

――この本を書くきっかけを教えてください。

 去年9月、淡路島にパソナの本社が移転することについて、ビジネスインサイダーに記事を執筆しました。その反響が予想以上に大きく、東京を離れることに関心のある人が多いということに気付きました。

 参考に何冊かコロナ移住についての本を読んでみましたが、私が移住で直面したことや移住の前に知りたかったことは書かれていません。移住する人の参考になるような本があった方がいいと思い、偉そうに聞こえるかもしれませんが、使命感のような気持ちで書きました。

――この本にはコロナ移住について最新の情報が載っているわけですね。澤田さんご自身が移住するときに直面した問題はどのようなことだったのでしょうか。

 住む家がないこととガス代などの高さにびっくりしました。

 空き家バンクは地方自治体によって登録されている家の条件がさまざまで、申し込んで何も改修しないで住める家がすぐ借りられるわけではないんです。私の場合は、周囲に聞き込みをして空き家を探し、自分で所有者を突き止めて、直接交渉して借りることができました。

――ご友人が淡路島で農業を始め、誘われて移住を決めたと書かれていましたが、ほかにも澤田さんが淡路島に移住を決めた理由はあるのですか。

 私は10代の終わりに東京に出てきてその後20年ほど東京に住んでいました。東京に出てきた1998〜99年ごろは、街ごとにカラーがあり予期せぬ出会いがたくさんありました。地方では大型ショッピングモールができて潰れてしまったような小さな個人商店もまだ残っていて、街が面白かった。ところが、最近はどの駅も同じような商業施設が入って画一化され、東京が面白くない街になってきたと思うようになったんです。

 もう一つ、ジャーナリストだけでは食えなくなってきたこともあります。妻と二人暮らしでも生活費は月に30万円ほどかかります。ところが、最近だと原稿料が1本1万円、高くて3万円、おまけに取材費も出ず、下手したら赤字という世界です。それで東京で食っていこうとしたら質の低い記事を大量生産するような生活になってしまいます。この仕事を死ぬまで続けるなら、田舎に住んで、生活費を稼ぐための「ライス」ワークとジャーナリストというライフワークを分けて、ライフワークとして好きな原稿を書いて面白いものを書いて生きたいなと思ったんです。

 そんなときに友人から移住の話がありました。私は神戸市長田区の出身なのですが、子どもの頃に釣りに来ていた場所と近かったんですね。子どもの頃のように魚を釣って、農業で体を動かして生活できたらいいなあと強烈に思いました。

――澤田さんは移住して1年ほどだそうですが、淡路島でそのくらしは実現できそうですか?

 最初は金にビビらなくていい生活を手に入れたいと思って移住しましたが、今思えば稚拙だった部分もありますね。

――といいますと?

 本にも書いた通り、地方だからといって生活費が安いわけではありません。それに光熱費やガソリン代など都市部よりお金がかかる部分もあります。

 それでも、淡路島では東京では得られなかった生活の楽しみがあります。東京ではショッピングモールや話題の店に行くといった消費する楽しみしかなく、そういった生活にストレスを感じていました。ところが今は、公園に行って紫陽花を見たり、海で魚釣りをしたりそれをさばいて料理したりと、自分で何かを作ったり見つけたりする楽しみがあります。

――たしかに、澤田さんがTwitter(@sawadaa078)で発信されている日々のくらしを拝見していると、魚釣りをしたり、農業で汗を流したりしてとても楽しそうに見えます。これまで取材された移住者も似たような方が多いのでしょうか。

 この本で取り上げた人たちは比較的早くコロナ移住していた人たちです。30代・40代の子育て世代が多く、仕事もITや大手のリモートワークに理解のある企業に勤務していたり、ベンチャーのCEOをしていたりといった、言ってしまえば「勝ち組」の人たちです。

――取材してみて、どうして彼らは移住したと思いますか。

 今『』という本が売れていますよね。環境破壊が進むなか資本主義の暴走を止めなければならないという内容ですが、このような本がはやるというのが世相を表しているのではないでしょうか。コロナ移住している世代というのは、要は就職氷河期世代なんですが、私はコロナ移住とは、彼らがこれまで平成の30年間我慢してきたものが爆発した結果なのではないかと見ています。

――爆発?

 若い人は団塊の世代の人たちが持っている、昭和的な右肩上がりで経済成長を目指すというような価値観に対して、ブチ切れている。

――つまり、コロナ移住を氷河期世代の資本主義に対する一種の反乱のようなものとしてとらえているわけですね。

 就職氷河期世代からそれ以降の今の10代から40代というのは、人口が減少して労働力人口が減り続ける中で、経済成長を求められるという無理ゲー(クリアするには設定に無理があるゲームのこと)に参加させられているわけです。『東京を捨てる』とタイトルにありますが、それは地理的な東京というよりかは、若者の未来に対する絶望感の比喩のようなものです。団塊親父たちが第3次ベビーブームを起こせなかったのに、誰もそれに触れず責任も取らない。政治や将来に何も選択肢がなくて、明るい未来を描けない。だからそんなところは捨ててしまって、若い人たちで新しい選択肢を作りましょうというゲリラ的行動がコロナ移住なのではないでしょうか。

――彼らの試みは成功すると思いますか。

 取材しながら希望を感じる一方で、これが暗い未来の始まりではないかという思いもあります。現在すでに格差社会から階級社会になりつつありますが、今後はホワイトカラー管理職が軽井沢などの風光明媚な別荘地からパソコンで指示を出して、東京や都市部で高卒者や非正規雇用者が働いているという嫌な近未来予想図も見えてしまいました。

――たしかに、本でも描かれていたように、人気のある県というのは新幹線や電車で都心から1、2時間以内の関東近郊の県でしたよね。生計を立てる場も一緒に移すというよりかは、稼ぐ場は東京で、生活圏は近郊の地方都市という事例が多かったですよね。

 しかし、それでも自治体からすればチャンスなわけです。地方都市で年収500万円を超える人はなかなかいませんが、東京の大手企業で1000万円稼ぐような人が移住してきたら、住民税が増える。コロナ禍を移住者が増えるチャンスととらえ、移住者獲得に力を入れている自治体もあります。

――なるほど。ただそういった現状があるということは、今の段階で完全に東京を捨てることは難しいということでもあるんですね。

 そうですね。私も淡路島に住んでいるといっても、神戸空港から飛行機に乗れば2時間で東京に行けます。今も仕事で月に一回くらいのペースで東京に行っています。なかなか東京を捨てきれないという部分があることは確かです。それでも、たとえ今コロナ移住できるのが「勝ち組」の人ばかりだとしても、そういった人たちが率先して動いていかないと世の中は変わらないんじゃないでしょうか。

――では逆に、そういった「勝ち組」的な仕事をしていない人がコロナ移住をしたい場合どうすればいいんでしょうか。

 私は地域おこし協力隊の制度を使って移住するのがいいと思います。地域おこし協力隊の場合は、3年間給料が出ます。その間に人間関係ができ、そのつてで家を借りたり、仕事が見つかったりする可能性がある。現在資金難や会社に理解がなくて動きたくても動けない人にとってはいい制度だと思います。

――地域おこし協力隊という名前であらゆる分野の仕事が募集されていて驚きました。3年間給料が出るとは言ってもその後は自力でやらないといけないわけですが、失敗しないためのコツのようなものはありますか。

 地方では中小、零細企業が多く、東京の企業のように余力があるわけじゃないので、雇われる感覚でいると絶対うまくいかない。だからなにかの資格を持っているとか自分が何ができるかが問われるんです。地域おこし協力隊の3年間を助走期間として使い、その間に資格を取るなり、起業の準備をするなりすればいいんじゃないでしょうか。

――東京都では2020年7月から2021年2月まで連続して転出者が多い状況が続きましたが、今後もこの状況は続くと思われますか。

 今後は飲食店に勤めている方が、雇用が不安定だから、実家に帰ろうかみたいな感じになるかもしれませんね。

 私は神戸市長田区出身で阪神大震災を経験し、地震に対してものすごく恐怖心があります。人気のある移住先の岡山県和気(わけ)町なども、もとは3・11のときに地震が来る可能性が少ないという土地で注目されました。当時、テレワークはほとんどありませんでしたが、今は大きく働き方が変わってきているのでチャンスです。

 近年、直接消費者と生産者がつながれる仕組みができています。そのような仕組みを使えば中抜き業者に手数料を取られることなく、生産者革命を起こすことができる。そういったツールを使いながら新しい生き方を地方移住者が作っていけるのではないでしょうか。

 たしかに、一部の産業や「勝ち組」だけがコロナで移住できるのかもしれませんが、せっかくその環境にいるなら、若い奴らが率先して動こうぜと言いたいですね。