【この記事で紹介する絵本】

少年の心をすくった光景は……『ぼくは川のように話す』

『ぼくは川のように話す』(文:ジョーダン・スコット、絵:シドニー・スミス、訳:原田 勝/偕成社)

「ほら、川の水を見てみろ。あれが、おまえの話し方だ」

目の前の川の水は、泡立って、波を打ち、渦をまいて、くだけている。川だってどもっているのである。そして、その先にある今よりずっと広い場所をめざし、気負わず、たゆまず流れていく……。吃音をもつカナダの詩人、ジョーダン・スコットの実体験をもとにして生まれたこの絵本。うまく回らない口で生きていく、その重みやもどかしさを少年の繊細な心を通して描き出す。

【編集長のおすすめポイント】

この絵本のすごいところは、言葉も絵も、絵本全体をぐるぐると渦巻きながら、全てが「その瞬間の出来事」に向かっていくところ。それはまるで川の流れそのもの。読む人は身を任せながら、物語の中心となっている、シドニー・スミスが描く圧巻の観音開きの絵をただ眺めればいいのです。目に飛び込んでくるその美しい光景をしっかりと焼き付け、そして繊細に変化していく少年の心に寄り添っていく。それだけで、何かが変わっていくはずなのです。

べりべりっと脱ぐ爽快感! 『とうもろこしぬぐぞう』

『とうもろこしぬぐぞう』(作:はらしままみ/ポプラ社)

その手足は健康的に日焼けをし、青々とした身体にふさふさのひげ。あぐらをかいて、まっすぐにこちらを見る彼の名前は「とうもろこしぬぐぞう」。なんて堂々した名前なのでしょう。ばりばり、べりべり、ぺりぺりときて、べろーん。それはそれは見事なぬぎっぷり。どうでしょう、この気持ちよさ。

【編集長のおすすめポイント】

理屈を上回る爽快感、それがこの絵本の一番の魅力です。どう楽しめばいいのか、絵本を開けばすぐにわかる。そういう作品って、ありそうでなかなかないですよね。でも、実際にとうもろこしを茹で、一本まるごと食べようとしてびっくり。ぬぐぞうさんとそっくりそのままの光景が、目の前に広がるのです。しっかりとした観察から生まれてきたからこそ、シンプルでも子どもたちの心に直接響くのかもしれませんね。

ひとりで過ごすかけがえのない時間『しずかな夏休み』

『しずかな夏休み』(作:キム・ジヒョン/光村教育図書)

ある夏のこと。少年が家族とともに車で街を抜け、橋を渡り、向かったのは遠い田舎に住む祖父母の家。窓から見える庭の小道に誘われ、愛犬とともに大木の生い茂った深い森へと歩いていく。道が細くなっていき、ふと顔をあげると、目の前には美しい湖畔が広がっていた! 雄大な景色に触れ合い、じわじわと湧き上がってくる静かな感動。それは、彼にとって間違いなく忘れられない景色であり……。

【編集長のおすすめポイント】

そこにあるのを見過ごしそうになってしまうくらい、静かに佇むこの絵本。漆黒の空を背景とした表紙に、目を凝らさないと見えてこない星々。でも何かが引っかかる。気になるのは、そのタイトルか。はたまた絵本から醸し出される気配なのか。そうして手に取り、ページを開き、やっと出会えるのがこの景色。それはもう、自分の手元に置いておきたくなってしまうのです。

「命を感じる」ことができる絵本『しらすどん』

『しらすどん』(作・絵:最勝寺朋子/岩崎書店)

今日のご飯はしらすどん。りょうくんはあっという間に食べて、ごちそうさま。ところが席を立つりょうくんに、「まだあるよ」と声をかけたのはどんぶり。見ると、どんぶりの中には食べ残された小さなしらすが一匹。どんぶりは続けて言うのです。「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」その瞬間、りょうくんはみるみる小さくなって、吸い込まれ……!?  どこにでもある日常の光景が急展開。こんな世界、味わったことない!?

【編集長のおすすめポイント】

「ぎょっ」とするようなインパクトや怖さがありながら、いつの間にか魅了されてしまう。絶対にあり得ない、そう思っていても納得させられてしまう。作者の執拗なこだわりと思いの強さが、時として見たこともないエンターテインメントに昇華させてしまうのでしょうか。一度読み始めたら、目が離せません。おそらく子どもたちの記憶の奥底にしっかりと残っていくのでしょうね。とても面白いです。

彼女が魅力的なのは……? 『わたしのかみがた』

『わたしのかみがた』(作:樋勝朋巳/ブロンズ新社)

彼女が帽子をとると、見たこともないような変わった髪型。個性的で驚くけれど、雰囲気も含めてとても似合っています。すると、彼女はこの髪型についてのお話をしてくれます。「どうしてこの髪型になったかというとね」、短くしたり、色をつけてみたり、もじゃもじゃパーマにして失敗したことも。でもいいの! ある時とりさんが来てくれて……。自分が自分らしくいることの心地よさ。表紙のまっすぐな眼差しから、作者が大切にしているであろう、そんな思いが伝わってきます。

【編集長のおすすめポイント】

どうしてあんな恰好をしているんだろう、変わった髪型だな。そんな風に思っても、なんだか魅力的で目が離せなくなってしまう人っていますよね。それはきっと、その人なりの「こだわり」があって、その人なりの「理由」があって、今はそれがとっても「居心地がいい」から。ふむふむ。じゃあ、自分にとっての「こだわり」ってなんだろう? そんな風に考え始めるだけでも、楽しい気分になってきますよね。

心が開放された宝物のような日々『海のアトリエ』

『海のアトリエ』(作:堀川理万子/偕成社)

学校に行けなくなっていたあたしに、ひとりで遊びにおいでと誘ってくれたのは、海辺のアトリエで暮らす絵描きさん。その人は、海が見える部屋で描きかけの大きな絵に向かい、夢中で絵を描き続けるの。あたしがいることなんて、忘れちゃったみたい。だけど、ちっとも退屈しなかった。少女が経験したのは、心が開放された宝物のような日々。家でもなく、学校でもなく。一緒にいるのは自分を「子ども扱いしない」大人。作者自身の経験を重ね合わせながら、忘れがたい一つ一つの魅力的な場面を丁寧に美しく描き出します。

【編集長のおすすめポイント】

個人的なエピソードを背景に生まれた話のはずなのに、絵本を開けば、確かにそこにアトリエがあり、絵描きさんがいる。何度も読んでいるうちに、その開放感を味わい、不思議な食卓にドキドキし、少し背伸びしているような気持ちにもなり。そしていつしか、この絵本でみた風景を「忘れたくない」と思うようになるのです。絵本の中でも「特別な日々」というのを経験することが出来るのかもしれない。そんな風に思わせてくれる1冊です。

同時に始まる物語の先に見えるのは……『楽園のむこうがわ』

『楽園のむこうがわ』(作:ノリタケ・ユキコ、文:椎名かおる/あすなろ書房)

物語は、カヤックに乗った少年二人が島に上陸したところから。それぞれの方法で森と向き合い、それぞれの物語が同時に始まります。ひとりは、島の少女と一緒に協力しながら、森と調和したささやかな家づくりを。もうひとりは、周辺の木を切り倒し、あっという間に場所を確保、都会的な家を。絵本から発する言葉はほんのわずか。それでも、はっきりと見えてくるのは、圧倒的に違う最終地点。人は森とどう向き合い、どう暮らしていくのが理想なのか。どちらも存分に美しく描かれ、簡単に答えを導き出すことなんてできないのです。

【編集長のおすすめポイント】

最初に見えてくるのは、美しく並んだ二つの森の景色。じっと見ていると、そこに人がいて、動いているのが見えてきて。やがて、彼らが何かを作り出し。二つの違う暮らしが浮かび上がってくる。それをじっと見ているだけでも、時間は過ぎていく。一見、シンプルに描かれているようでいて、それほど魅力的な絵なのです。ところが、確かに何かが引っかかる。読み終われば、それを考えずにはいられなくなるのです。やっぱり不思議な存在感のある絵本です。

彼女がつくるお城は普通じゃない!? 『すなのおしろ』

『すなのおしろ』(作:エイナット・ツァルファティ、訳:青山南 /光村教育図書)

中に入ればオーシャンビューだし、波の音が聞こえるし、アイスクリームも食べ放題。 彼女の作る「砂のお城」は普通じゃない! 世界中から王さまやお妃さまがやってきて、宴会場で派手なパーティ。ところが、みんなが言い出した。豪華な朝食も遊び場もベッドも砂だらけ。かゆいし、眠れないし、みんなかんかん。仕方ないよね、砂のお城なんだから。そこで女の子は……?

【編集長のおすすめポイント】

その想像力のたくましさと、あっという間に崩れてなくなってしまうという儚さ。「砂遊び」という誰でも共感できるテーマでありながら、ひと味もふた味も違うのは、空想から現実へと戻っていく曖昧な部分の描かれ方! 「あそうか、これは本物じゃないもんね」という部分も含めた楽しみなんですよね。さらに、登場人物の人種の豊かさも面白い。それぞれが個性的に、そして自然に共存していて、見ているだけで楽しいのです。

だんだん感じる、見えてくる! 『だんだん だんだん』

『だんだん だんだん』(作:たけがみたえ/ひさかたチャイルド)

よっちゃん、今日はおじいちゃんとお散歩。だんだん家を離れていき、辺りはだんだん草ぼうぼう、空はだんだん夜の色。草むらのバッタやカマキリ、空にはコウモリ、一斉に鳴きだすカエルに、夜空に飛ぶのは……? 夕方と夜の間、だんだんと変化していく景色、なんて贅沢な時間なのでしょう。少しずつ見えてくるのは、夜の命がきらめく世界。ゾクゾクするけど、おじいちゃんと一緒なら怖くない。豊かな色彩の木版画で臨場感たっぷりに描き出します。

【編集長のおすすめポイント】

夕方から夜の空の色って、本当に豊か。ピンクからオレンジに変わっていき、だんだん濃くなっていったかと思うと、今度は薄紫。そのうち青くなっていき、気がつけばあっという間に真っ暗闇。きれいだな。絵本の中のそんな変化をゆっくりと眺めていると、少しずつ見えてくるのは、風景の色に馴染む様々な生き物。ああ、こんなところに佇んでいる。今度は、実際にお散歩した時にも観察してみなくっちゃ。知らなかった景色が見えてくるかもしれませんよね。

あの子の心の中をのぞいてみると? 『カラフルなひとりごと』

『カラフルなひとりごと』(作:種村有希子/ほるぷ出版)

まちの片隅のあちこちで見かけるあの子も、この子も。心の中では、きっと色々なおしゃべりをしているはず。ちょっとのぞいてみると……? 夏の落ち葉を発見! この子の心の色は、若葉のみどり。おやつを上手に食べられなくて、こぼしてばかり。彼女の心の中は、とまどいと不安な色。周りからじゃわからない心模様。ささやかな出来事だけれど、そこにあるのは「発見」や「喜び」そして「不安」や「ひみつ」。彼らだけの大切な特別の瞬間。

【編集長のおすすめポイント】

例えば、一日のうちで一番好きな時間っていつだろう。嬉しいのはどんな時だろう。幼稚園にいるときは、どんな気持ち? お友達と遊んでいるときは? そんな風に一つ一つの出来事を思い出しながら、その時の気持ちも一緒に話すことができたなら。イメージする色まで共有することができたなら。こんなに楽しい親子の時間はないかもしれませんね。「そんなの無理だよ」と言っても大丈夫。絵本を通して自分に似ている子を探してみたり、一緒に想像してみるのだって楽しいのです。

全てはとんで解決!? 『なわとびょ〜ん』

『なわとびょ〜ん』(作:シゲリカツヒコ/KADOKAWA)

なわとびが苦手なケンタの前に現れたのは、大なわを持った謎の帽子をかぶった男。気が付けばケンタはお年寄りがたくさんいる公園に。すると男はいきなり大なわをまわしはじめた! ああっ、あぶないっ! みんな、よけてーーっ! ところが……「はっ!」何ということ。腰が曲がっていたおじいさんたちが軽やかにジャンプ。なんでも、これは絶対にひっからないなわだと言う。畑に行けば、大きすぎて抜けないかぶが。道路に行けば、渋滞していた車やトラック。殿様のお屋敷に行けば、隠れていた忍者たちが……。そんなことってあるの!?

【編集長のおすすめポイント】

描き込めば描き込むほど、その描写がリアルになっていくほど、なぜかユーモラスになっていくシゲリカツヒコさんの絵の魅力。絵本の中ではいつも、あり得ないことが起こり、あり得ない光景が繰り広げられ、それでもいつも、納得させられてしまう。こんな楽しいことってあるでしょうか。とても不思議だけれど、それはあくまで日常のすぐ近くにある世界。身近で親しみやすいファンタジー、子どもたちは好きに決まってますよね。

緊張と安堵の繰り返し……『ついてくる』

『ついてくる』(作:小川育 /教育画劇)

遊びに夢中になってたら、すっかりこんな時間。早く帰らなくちゃ。男の子の帰り道は、狭い路地を通り、草がうっそうと茂る橋の下をくぐり、薄暗い山道へと続く。「ひた、ひた、ひた……」静かな道中に聞こえてくるのは、不気味な音。うしろに誰かがついてくる? 真っ黒なページに浮かびあがるのは、意味ありげな言葉の響き。夕方の美しさとはまた違う空気の色。でもなんだかこの流れ、どこか変。読み終わった後に残るのは、やっぱり怖さ? それとも安心感?

【編集長のおすすめポイント】

とっても怖いはずなのに。追い詰められているはずなのに。最後まで読んだ時の驚きは、また味わったことのない感覚で。気がつけば、すっかり心が揺り動かされているのです。ちょっと疲れたけど、なんだか心地いい。2回目に読む時は、また違う景色に目がいくのかな。そんな風に子どもたちに読み親しまれる「怖い絵本」になっていきそうですよね。演出も、独特な色彩も、とっても魅力的な1冊です。

ぼくがみつけた、たいせつな時間『すてきなひとりぼっち』

『すてきなひとりぼっち』(作:なかがわちひろ/のら書店)

絵に夢中になっていると、出来上がった頃にはみんなはもういない。一平くんは、こういうひとりぼっちには慣れている。雨の帰り道、誰も見ていないところで転んで、傘が折れて、水たまりで全身びしょびしょになる。そんなひとりぼっちにも慣れている。だけど、今日はちょっとつらい。だって、おかあさんが家の鍵を閉めたまま、どこかに出かけてしまったんだ。なんでだよぉ……。 でも、ふとしたことで発見した、一平くんのたいせつな時間。自分だけの空間。これは、ぼくだけの宝物。そう、ひとりぼっちも悪くない。

【編集長のおすすめポイント】

この絵本を読んだあと、ためしにお父さんやお母さん、それから周りの大人に「ひとりぼっちになったこと、ある?」って聞いてみて。だって「ひとりの時間」って、思っているよりもずっと豊か。みんなと一緒にいる時間はもちろん楽しいけれど、ひとりでいる時にこそ、色々と感じて、考えて、一平くんみたいに発見することだってある。そうやって見つけたみんなの「ひとりぼっち」、そして自分だけの「ひとりぼっち」。そういうものを集めるのも、ちょっと素敵な時間になるはずです。

 絵本ナビ編集長がおすすめする「NEXTプラチナブック13選」はいかがでしたでしょうか。対象年齢も、あつかっているテーマもさまざま。気になった絵本があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。