独創的な文学に与えられるBunkamuraドゥマゴ文学賞を絵本で受賞した。31回の歴史で絵本が選ばれたのは初めて。「ひとりの選考委員」の作家、江國香織さんは「絵本においては、絵が言葉」「絵本はもちろん文学である」と評した。

 「絵本といっても言葉が先で、絵に触れられることは少ない。江國さんが絵にスポットを当ててくださったことがうれしかった」

 細部まで描き込まれた水彩画のなかで、「おばあちゃん」が小学生のころ「絵描きさん」と出会い、海が見えるアトリエで過ごした夏の経験を孫娘の「わたし」に語る。おばあちゃん、絵描きさん、わたし、それぞれが過ごした時間が、何層にもなって流れていく。

 おばあちゃんの部屋の絵には「おばあちゃんの人生を集約させた」という。棚に飾られた写真とネクタイは夫の遺品だろうか。「おばあちゃんは仏壇は持っていないけれど、思い出を大切にしている。絵から自由に想像してほしい」。一方で、本棚に並ぶのは実在の作家夏目漱石と内田百けんの全集で、偏愛的リアリズムも潜ませてある。

 絵描きさんにはモデルがいる。幼い頃、絵を教えてくれた女性画家で「私たちにも子ども用の顔をしないところが格好良かった」。ずっと覚えているその人のことを、絵本にしたらと促してくれたのが編集者の広松健児さん。だから「絵本は編集者さんとの共同作業」と著者は思う。

 古いマンションの風通しのよいアトリエで、午前は絵画、午後は絵本の仕事をする。描きかけの絵、絵本のモデルの女性から譲り受けた70年は経つ観葉植物モンステラ、個展用の刺繍(ししゅう)作品、仕事の合間にめでるメダカなど、創造を刺激するもので部屋はいっぱいだ。アトリエとは、なんと魅力的な空間なのだろうか。(文・久田貴志子 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2021年9月25日掲載