お話を聞いた⼈ミョン・スジョン

絵本作家。1980年韓国・慶尚南道生まれ。梨花女子大学西洋画科を卒業後、作家活動を開始。2019年、『せかいのはてまでひろがるスカート』でブラチスラバ世界絵本原画展「金のりんご賞」を受賞。『ピアノの声が見える』(未訳)で第1回ロッテ出版文化大賞・本賞を受賞。他に『大きな、大きな』(未訳)などの著書がある。

スカートはジェンダーを超えて

――「わたしのスカート せかいのはてまでひろがるかな?」と少女が問いかけて始まる韓国の絵本『せかいのはてまでひろがるスカート』(ライチブックス)。ミツバチや小鳥に「あなたのスカートは せかいのはてまでひろがるの?」とたずねてまわると、「いいえ、だけど……」と素敵な世界を広げてみせてくれる。繊細な線と美しい色彩が溶け合うイラストレーションの絵本は、2019年の「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」で上位5位の作家に贈られる「金のりんご賞」を受賞。韓国で増刷を重ね、日本、フランス、中国でも出版されている。

『せかいのはてまでひろがるスカート』より

 この絵本のきっかけは、私の姪のヘリンが5歳の時に、スカートをはかせた私に尋ねた一言です。へリンは「このスカート、空の果てまで開くの?」って聞いてきて、その質問がとても可愛らしく印象に残りました。それをずっと覚えていて、実に6年越しで絵本に作り上げることができました。

 実際には、スカートは世界の果てまで広げることはできません。ですが素晴らしく才能のある女の子たちの夢と希望は、世界の果てまで広がることを表現できたらと思いました。このテーマは物語を通して展開しています。

――スカートという題材を選んだ背後には、「ジェンダーを制限するのではなく、むしろ男女の平等性を応援し、男の子が女性に関する正しい見方を持つように」との思いがある、とスジョンさんは言う。

『せかいのはてまでひろがるスカート』より

 スカートは古くから世界中に存在する衣服で、人類が最初に身にまとった衣服がスカートと言われています。同時に現代社会では女性の衣服というイメージが定着していますね。こうした点から、開かれたジェンダーの見方を示し、発展する人類の姿を描くための素材として「スカート」に着目しました。

 この絵本には12のスカートが登場するのですが、1つのスカートに2人ずつ、計24人の女性主人公が(モチーフとして)登場します。細部をよく見ていただくと、菊花には「アルプスの少女ハイジ」の姿が、蓮の葉には「赤毛のアン」が描かれていることに気づかれるでしょう。長年、全世界で広く愛されてきた作品の中から、私が考える正しく、子供たちに見せたい女性主人公を選別し描きました。彼女たちは皆、ポジティブでたくましく、勇敢で素敵なキャラクターたちです。

『せかいのはてまでひろがるスカート』より

 少女たちの問いかけに答える「みつばち」さんや「おはな」さんの話し言葉は、いわゆる女性的な口調ではありません。韓国語版でも同様です。この本は文と絵の両方で既存の社会通念的な「女性性」を全く考慮せずに作りました。その存在が女の子なのか男の子なのかは重要ではなく、「その存在そのもの」だけが重要なのだということが、まさにこの本が見せたいジェンダーの観点です。

韓国への伝統絵画のオマージュ

――朱色の繊細な線で描かれた絵も見どころの一つ。構図や緻密な線画、繊細な色付けは、韓国(朝鮮)の伝統的な絵画に影響を受けているという。

 この絵本を作った動機の一つに、韓国の絵画の伝統を若い世代に伝えたいという気持ちがありました。例えば物語の冒頭に登場する菊の絵は、李氏朝鮮中期の女流書画家、申師任堂(シン・サイムダン、1504〜51年)の描く「菊」がモチーフとなっています。

『せかいのはてまでひろがるスカート』より

 18世紀の政府高官でもあり、朝鮮中期を代表する画家、書道家、美術評論家でもあった姜世晃(カン・セファン、1713〜91年)が蓮花を描いた水彩画「香遠益清(香り遠く益々清し)」もモチーフにしています。

――現在、韓国では多様なスタイルの絵本が出版され、国際的な絵本のコンクールで入賞する作品も増えている。

 幅広い作家層により、子供の読者だけでなく大人のための絵本も多く出版されています。芸術性の高い絵本から、社会問題をテーマにしたものまで幅広い作品が活発に生まれていることは、作り手の一人として大いに刺激を受け、期待を膨らませています。