春になると、イタリア北部にあるボローニャ市で、世界最大規模の児童書の見本市が開かれる。「ボローニャ児童図書展」というブックフェアで、各国から最新の優れた児童書や絵本が集まることで知られる。

 その中から、選りすぐりの絵本たちが海を渡り、東京にある図書館に贈られているのをご存知だろうか。板橋区の「いたばしボローニャ絵本館」には、ボローニャ児童図書展の事務局から寄贈された本を中心に、国内外の珍しい絵本が並ぶ。

 「年齢にかかわらず、どなたにも絵本を楽しんでいただきたい」という思いをこめて、前身の「いたばしボローニャ子ども絵本館」から「子ども」を取り、「いたばしボローニャ絵本館」として今年3月、板橋区平和公園に移転開館したばかり。いったい、どんな絵本との出会いが待っているのだろうか。

100カ国70言語の絵本がずらり

いたばしボローニャ絵本館が併設されている板橋区立中央図書館

 公園の木々を抜けていくと、真新しい建物が見えてくる。エントランスの前には屋外テラスがしつらえられ、人々がのんびりと過ごしていた。ガラス張りの一階にはカフェもあり、コーヒーを飲みながら本を読む人たちの姿も。

 ここが、板橋区立中央図書館に併設される形で新たに生まれ変わった「いたばしボローニャ絵本館」だ。1階のフロアは、いたばしボローニャ絵本館と中央図書館の児童書コーナーがシームレスになっており、訪れた時には、多くの親子連れでにぎわっていた。

ヨシタケシンスケさんの絵本の各国語版

 「開館してからは、圧倒的に親子連れの方が増えました」と話すのは、ボローニャ絵本係の村上朗係長。「大人の方は、好きな作家さんの作品が他の言語ではどう訳されているのか知りたいとか、語学や翻訳の勉強をしている方も多いですね」

 それもそのはず。いたばしボローニャ絵本館の約3万点におよぶコレクションの特徴は、100カ国70言語という多様さにある。

 たとえば、今年5月に「はらぺこあおむし」などで知られる作家、が流れたときは、世界各国で訳された絵本をずらりと並べた写真をSNSに投稿。カールさんがいかに世界中で愛されているかを追悼の意とともに伝えた。

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ボローニャから届く絵本は毎年100冊超

 この稀有な図書館が誕生したきっかけは、1981年に板橋区立美術館で開催された「ボローニャ国際絵本原画展」にある。このときから板橋区とボローニャ市の交流が始まり、交流25周年にあたる2005年には、友好都市交流協定が結ばれた。

 また、ボローニャ児童図書展の事務局が選書した絵本を毎年150〜200冊、寄贈を受けるようになり、これまで寄贈された海外絵本をいつでも直接手にとれる施設として、前身の「いたばしボローニャ子ども絵本館」が2004年に開館した。

いたばしボローニャ絵本館の館内

 大橋薫館長は、こう説明する。

 「当館は、施設名にもある通り、イタリアのボローニャ市との友好関係が基盤になっています。作品をガラスケースで展示するというよりも、世界の絵本を手にとって見られるようにしています。普通の図書館では、日本語の絵本と他の言語の絵本は同じ作品であっても別々に配架されることが多いのですが、ここでは比較できるよう、セットにして展示したりしています」

 コロナ禍にありながらも、ボローニャ児童図書展の事務局から、今年も無事に絵本が到着。40カ国166冊の絵本はどれも個性的で、中には絵巻物のような作品もあった。

珍しい製本の絵本

 担当している村上係長によると、ボローニャから届く絵本はどれもユニークという。

 「国によって色使いやデザインが全く違っていたりします。中には、言葉がわからないものもありますが、やはり新進気鋭の作品が集まっているだけあって、絵を見ているだけでも楽しめます」

 これらボローニャから届く最新の絵本は、毎年夏に開かれる「ボローニャ・ブックフェアinいたばし」でお披露目されるのが恒例となっている。

ボローニャの「ポルティコ」が図書館に出現

ボローニャギャラリー

 フロアの中央には、ボローニャ市との交流を象徴する特別なコーナーが目を引く。「ボローニャギャラリー」と名付けられた友好のシンボルに、ボローニャに関する資料が展示されている。これは、ボローニャ市と板橋区が共同で開催したデザインコンテストの最優秀作品をもとに設計されたものという。

 「このボローニャギャラリーは、ボローニャ市を代表する建造物であるポルティコをモチーフにしたデザインになっています」と大橋館長。ポルティコとは、アーケードのような柱廊で、雨風がしのげるほか、人々の交流の場にもなっている。

 「偶然ですが、ポルティコは今年7月に、世界文化遺産に登録されることが決定しました。そうしたご縁も大事にしていきたいと思っています」(大橋館長)

ボローニャ・ラガッツィ賞の歴代受賞作品コーナー

 ほかにも、ブックデザインの優れた作品に贈られるボローニャ・ラガッツィ賞の歴代受賞作品や、歴代の国際アンデルセン賞受賞画家の作品を見られるコーナーもある。

「絵本のまち板橋」から情報発信

 館内には、地元の中学生が制作したという絵本も並んでいた。タイトルもそれぞれユニークで、「デミグラスソースのふるまち」というタイトルの絵本は、思わず手にとってしまった。

 「ここにある絵本は、区内の中学生がワークショップで作ったものになります。実は板橋区は印刷・製本業が盛んで、『はらぺこあおむし』を製本していらっしゃる企業のご協力のもと、中学生に絵本の製本体験をしてもらっています」

中学生が制作した絵本

 ちなみに、デミグラスソースの絵本をつくった中学生は、デミグラスソースが大好きなのだという。このワークショップは2年前から始まった新しい試みだ。

 「板橋区では今、『絵本のまち板橋』として、絵本文化によるまち作りをしようと、取り組みが進められているところです。このいたばしボローニャ絵本館はその発信拠点の一つになっています」と大橋館長は説明する。

 幼い頃に絵本を読むことはあっても、大人になるにつれ疎遠になってしまいがちだ。しかし、板橋区では、赤ちゃんから大人まで、絵本を読むだけでなく、絵本を自分たちでつくったり、講座で学んだり、交流したりするなど、さまざまな絵本文化を広めようと試みているという。

「世界を知る」コーナー。国別に並んでおり、絵本を通じて各国の文化や暮らしを知る

 公園に移転してからは、散歩がてら立ち寄ってくれる人も増えたという、いたばしボローニャ絵本館。絵本文化が地元の人たちのライフスタイルとして、少しずつ根づいている。ここからボローニャ児童図書展で選ばれる絵本が生まれる日は、そう遠くないかもしれない。

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