お話を聞いた⼈林木林(はやし・きりん)詩人・絵本作家・作詞家

山口県生まれ。第4回詩のボクシング全国大会で優勝。詩情あふれる独自の視点で多彩な作品を手がける。『ひだまり』(光村教育図書)で第66回産経児童出版文化賞産経新聞社賞、『みどりのほし』(童心社)で第6回児童ペン賞絵本賞を受賞。最新刊に『あかいてぶくろ』(小峰書店)。詩集、絵本、翻訳など作品多数。

「二番目」に悪いのは誰?

――有名な人が言っていたから、友達が話していたから、ネットで話題になっていたから……。噂が独り歩きして、誰かを傷つけるニュースが多い現代、ドキッとさせられる絵本がある。金のライオンが悪意ある噂話を流して、皆から信用されていた銀のライオンを追いやっていく『二番目の悪者』(小さい書房)。「二番目」とは誰のことだろうか? 

 当時、こういう社会的なテーマの絵本は、作ったことがありませんでした。どちらかというと、ほんわかした感じの作品を多く手掛けてきましたので、「小さい書房」の安永則子さんに執筆をお願いされたとき、どうして私に?と不思議でした。新しいジャンルへの挑戦と思ってお受けしました。でき上がるまで苦労と葛藤の連続でしたね。果たして読者に受け入れてもらえる絵本にできるのかと不安を抱えながら手探りしていました。

『二番目の悪者』(小さい書房)より

 この絵本の内容は、多くの方にとって身近でよく起こっている出来事だと思うんです。学校で、会社で、ママ友の間で、誰かから聞いた話を「〇〇らしいよ」「〇〇さんも言ってたよ」とどんどん広がるうちに、それが真実なのだと思い込んでしまう。私自身もそういう経験はあります。年齢や性別、環境に関係なく、人が集まるところって似たような現象が起こりやすいんでしょうかね。「まさに今この本のような状況なんです」と読者の方からよく言われるんですよ。

――内容は社会風刺だが、ドキュメンタリーのようなどぎつさを感じないのは、林木林さんの美しい文章と、庄野ナホコさんの優しいタッチの絵がなせる業だ。一番悪者の金のライオンはずるがしこそうに描かれているが、噂を広げる動物たちは、どこにでもいるような普通の仲間。心配性だったり、おせっかいなだけで、自分が「二番目の悪者」だなんて思ってもいない。

 

 何が本当で何が嘘なのか、自分の目で確かめようとする意識は大切ですよね。特に日本人は控えめが美徳とされる文化が根強く残っていて、「いい人」と言われるような人ほど、誤解されてもそのうちわかってくれるだろうと言い返さないところがある気がします。絵本の中で銀のライオンも、自分の根も葉もない噂について、苦笑いしただけで何も言いません。でも世界は変わってしまうんです。

 実はこの本は、小中学校での読み聞かせや、高校や大学などでの演劇、企業の新人社員研修に使用したいとご依頼いただくこともあります。そんな幅広い需要があるなんて、本当にびっくりしましたね。子どもから大人まで、誰にとっても身近な、普遍的テーマなのだと改めて感じています。読み聞かせのときに画面を大きく見せたいという要望が版元さんにたくさん寄せられて、今年、『二番目の悪者』の大型版が発売されました。

嘘は巧妙にやってくる

――絵本であるからこそ、ひとつひとつの文章はシンプルで短い。でも林さんの生み出す言葉は、読む人の心に入り込んで、何かしらの欠片を残していく。『二番目の悪者』に第三者として現れる雲が、こんな言葉を呟いている。「嘘は、向こうから巧妙にやってくるが、真実は自らさがし求めなければ見つけられない」……心がぎゅっとつかまれるようなこの言葉が、物語の核となる。

『二番目の悪者』(小さい書房)より

『二番目の悪者』(小さい書房)より

 雲の言葉は、物語のどこかに詩のような印象的なフレーズを入れたいと思って書きました。私は詩を書いているので、絵本の筋だけでなく、読み終わった後も心に残る詩的な言葉をちりばめたい、といつも思いながら制作しています。

 「詩」って、発見や感動を響きやリズムのある凝縮した短い言葉で表現し、本質を見つめる眼差しを差し出すものではないでしょうか。だから、絵本もストーリーを読んで終わりではなく、はっとする詩的な言葉との出合いによって、自らの中で問いや答えを導いたり、大切な何かを振り返るきっかけにしていただけたら嬉しいです。

――『二番の悪者』の見返しには、こんな言葉が書かれている。「これが全て作り話だと言い切れるだろうか――」と。