今年の野間文芸新人賞が井戸川射子(いこ)さん(33)の『ここはとても速い川』(講談社)に決まった。井戸川さんは教師をしながら2018年に私家版で詩集『する、されるユートピア』を出版、翌年の中原中也賞を受けた。今回の受賞作は初めての小説集だった。

 「国語のなかで詩が一番教えにくく、書いたらわかるかなと思い書き始めた。ただ書くうちに、全部自分の体験のように思われるのがしんどくて。自由に思いついたこと、感じたこと、見たことを書きたいと思い、小説に落とし込んだ」

 表題作は児童養護施設に暮らす子どもたちの日常を、小学5年の少年の視点から繊細につづった作品。大学時代に社会福祉の実習で1カ月半泊まり込んだ施設での体験をもとに書いた。選考委員の川上弘美さんは「少年の目を通した表現が、徹底的に少年の語彙(ごい)や視点のままで揺らがなかった。文章と物語が複合的にからみあい、この作者にしか表現できない小説になっていた」と評した。

 井戸川さんは「詩を書くときはこれは詩と言えるのかな、小説を書くときはこれは小説と言えるのかな、と思いながら書いてきた。いつも自信がないのですが、本作は私はいいと思うんだよなという点で自信があった。すごくうれしいです」と喜びを述べた。(野波健祐)=朝日新聞2021年11月10日掲載