澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

『方丈の孤月 鴨長明伝』 梓澤(あずさわ)要著 新潮文庫 781円

『竹ノ御所鞠子』 杉本苑子著 中公文庫 946円

『義時 運命の輪』 奥山景布子(きょうこ)著 集英社文庫 704円

 来年のNHK大河ドラマは、鎌倉初期が舞台。その予習にぴったりの三冊。

 (1)激しく動乱する院政期から鎌倉期の京都に生きた鴨長明。『方丈記』の筆者として歴史に名を残した彼の不器用な生涯と、彼を置き去りに転変する時代を描いた長編小説。主人公の生き様は腹立たしくなるほど頑(かたく)なかつ世渡り下手だが、読み進めるにつれて、なぜか不思議な愛情が湧いてくる。仏教史を学んだ筆者の確かな知識に裏付けられた、当時の仏教観も読みどころの一つである。

 (2)鎌倉初期に相次いだ政変によって異母兄弟が次々と命を奪われる中、女児ゆえにたった一人、大人になることができた源頼朝の最後の嫡孫(ちゃくそん)・鞠子。だがその性ゆえに命救われた彼女を待ち受けていたものは、女であるがゆえの不条理な境遇だった。

 わずかに史料に名を残すのみの主人公の生涯を生き生きと蘇(よみがえ)らせることで、男たちの争いの陰に踏みにじられた女性たちの悲劇を描いた残酷ながらも美しい長編。巧みに配された登場人物たちの境遇の変化が、物語により一層の奥行きを添えている。

 (3)一族の姫が源頼朝の妻となったことから、鎌倉将軍家第一の補佐の任に当たることとなった北条家。その嫡男(ちゃくなん)に生まれながらも、父の後妻によって家督相続を阻まれた主人公・義時は、気丈で強引な姉・政子とその夫・源頼朝に自身の命運を賭ける。混乱の鎌倉を疾駆し、ついには鎌倉将軍家すらを凌駕(りょうが)した男の半生記である。=朝日新聞2021年11月20日掲載