お話を聞いた⼈川原礫(かわはら・れき)

1974年生まれ、群馬県出身。2009年『アクセル・ワールド』(電撃文庫刊)でデビュー。01年からWeb小説「ソードアート・オンライン」シリーズを書き始め、02〜08年までWebサイトで公開していた(現在は閉鎖)。11年に著作である『アクセル・ワールド』と『ソードアート・オンライン』のアニメ化、ゲーム化が同時に進み、世界中で注目を集める。VRゲームに造詣が深く、世界的なゲームクリエイターとの対談も行っている。

ゲームでの蓄積を小説に

――「SAO」シリーズは、視覚と聴覚だけでなく、触覚・味覚・臭覚を脳内で直接再現させるフルダイブ技術を使った次世代VRMMO(仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)RPGの世界を舞台に、そのゲームにプレイヤーとして参加したキリトやアスナの活躍を書いています。作品を書くきっかけはなんでしたか?

 MMOの始祖のひとつ「ウルティマオンライン」(1997年10月サービス開始)と、その後リリースされた「ラグナロクオンライン」(2002年12月日本サービス開始)のプレイに、膨大な時間を費やしたことです。長い時は1日12時間以上プレイし続ける生活を数年間続けていく中で、ゲームで蓄積したもので1本小説を書いて電撃小説大賞に投稿し、あわよくばプロになろうという気持ちで書き始めました。ですからMMORPGのおもしろさを広めようというよりも、自分が失った時間のかわりに何かを回収するためだったんです。

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

――それだけゲームが楽しかったということですね。

 今にして思えば、「私は熱く燃える日々を過ごしたんだ」という良い思い出だけで満足できたような気がしますが、当時はハマればハマるほど、楽しさと同じ量の焦燥感が溜まって。その焦燥感がまた、プレイする上での味つけにもなっていましたが(笑)。

――そんな思いで書いた小説ですが、電撃小説大賞の応募規定枚数を大幅にオーバーしたためいったん応募を取り止め、Webで発表することになりました。

 枚数オーバーは言い訳です(笑)。私は自分の打たれ弱さを自覚していたので、こんなに一生懸命書いたのに、一次審査で落ちたら精神的に耐えられないから、もう少し修行してからまた投稿しようと思ったんですね。その修行の場として選んだのが、当時はかなりマイナーなジャンルだったオンライン小説でした。そこで7年間書き続け、2009年にやっともう1回チャレンジする気力が湧いてきて、「アクセル・ワールド」で第15回電撃小説大賞を受賞し、ようやく作家としてデビューできました。

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

モチベーションは「危機感」

――デビュー2カ月後には「SAO」シリーズの刊行がスタートします。デビュー後は、どんな思いで作品を書いていましたか?

 ひたすら作家として生き残ることしか考えていませんでしたね。私のモチベーションは常に「危機感」。書いていないと生き残れない。デビューして12年経った今思うことも「なんとか生き延びてきた。この先も生き残りたい」。ひたすらそれだけです。

――その感情は、物語で「SAO」というデスゲームに囚われたキャラクターたちが感じていた焦燥感にも似ていますが、それが創作意欲の糧になっている状態ということですか?

 そうですね。これは私の印象ですが、一般文芸は作家にファンがつきますが、ライトノベルは作品にファンがつく。もしかしたら『SAO』が好きという人の中には、私のペンネームを知らない人がいるかもしれません。実際にメガヒット作品を生み出した作家さんの次回作が、まったく売れないということも少なくないんです。だから少しでもいいものを書き続けるしかないと。

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

――その原動力となっていたものは?

 Web小説として連載していた時は、HPの掲示板に読者の皆さまが書いて下さる感想だけが、心の支えでした。今はネットで発表して、人気がでたら書籍化というルートが確立されていますが、20年前はそんな希望もなくて、書いているうちに「本当にこのまま続けて良いのか」という疑問が頭をもたげてくるんですね。でも読者の感想に励まされ、なんとか書き続けているうちに、作品や読者に対する責任を自覚するようになりました。

――どんな責任でしょうか?

 この物語をきちんと完結させないと、ここまで読んでくださった読者に申し訳ないし、それ以上に私自身が生み出したキリトやアスナたちキャラクターに申し訳ないという意識が芽生えたんです。途中何回か休んだ時期がありますが、「アリシゼーション編」(9〜18巻相当)の完結までこぎつけた時に感じた、「私は成し遂げた!」という達成感があったから、今も商業ベースで書き続けていられるのかなと思いますね。お金がモチベーションになっていたら、できなかった。ネット時代にファンの皆さんに支えていただいた体験が作家としての土台になっています。そこは今後も、揺るがないなと思います。

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

「プログレッシブ編」で一から楽しんで

――公開中の映画「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」は、2012年からスタートした新シリーズ「プログレッシブ」編が原作になっています。シリーズ第1部「アインクラッド」編では書かれなかった、巨大な浮遊城アインクラッドの攻略戦を第1層から順番に追う物語を改めて書こうと思った理由はなんでしたか?

 テレビアニメ第1期(2012年7月〜12月放送)の制作にあたり、アニメーション制作サイドから、「はじまりの街」を出た直後から第1層のボスを倒すまでが原作にないので、シナリオを作って欲しいと依頼され、ざっとプロット形式で書いたものが劇場版の原型になっています。ただ書いた文量が多く、シナリオとして採用されたのは全体の3分の2くらいだったので「もったいない」と。私は「もったいない精神」で仕事をしていますから、早速担当編集の三木一馬さんと話をして、スピンオフシリーズが誕生しました。ですから、アニメのシナリオの依頼がなければ、始まらなかったのです。

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

――原作は、先ほど書き上げたときに達成感を感じたという第4部の「アリシゼーション」編の後、第4部外伝、短編集を挟んで、第5部「ユナイタル・リング」編まで進んでいます。TVアニメも「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」で一段落し、2017年の「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」は、川原さんの書き下ろし完全オリジナル作でしたから、今回の劇場版は、また一から『SAO』の原点を味わえるものになっています。どんな風に作品を楽しんでもらいたいか、お聞かせください。

 今回の劇場版は企画当初から、ヒロインのアスナの視点でお話を進めるという方針で始まりました。私自身も脚本会議に参加し、あれこれ意見を出していたので中身はよく知っているつもりでしたが、実際に完成した映像を観ると、脚本やコンテ段階から想像していた以上に、アスナの心情が伝わってきて、より心理面、内面の描写を重視した作りになっていると感じました。

 キリト目線で描かれたTVアニメのストーリーの裏で、アスナの物語がこんな風に進行していたということで、ややパラレル感があるかもしれませんが、新キャラクターのミトを含め、なるべく自然に原作小説やTVアニメに合流できるように、かなり模索した上でのストーリーになっています。だから何も考えずに、作品に夢中になっていただけたらうれしいですし、そうなれるフィルムだと思います。それと、音響監督の岩浪美和さんが魂を込めた12chフル活用の音と進化した解像度の高い映像を、ぜひ劇場で100%味わって欲しいですね。自分が「アインクラッド」にダイブしたつもりで、アスナと一体化してはらはらドキドキわくわくしてもらえたら、うれしいです。

インフォメーション「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」

監督:河野亜矢子、原作・ストーリー原案:川原礫。松岡禎丞、戸松遥、水瀬いのりら声の出演。全国の劇場で公開中。
公式サイト: