「延びすぎた寿命」 [著]ジャン=ダヴィド・ゼトゥン

 女性87・74歳、男性81・64歳。昨年7月に公表された日本人の平均寿命はまた過去最高を更新した。コロナの影響がこれから出てくる可能性はあるものの、平均寿命はまだ延びている。
 本書によれば、1960年代に世界トップだった米国は2010年代半ばに平均寿命が低下に転じた最初の先進国だ。と、言われても驚きはない。何しろテレビなどで見る限り日本より明らかに太った人が多い。
 ただ、肥満や喫煙だけで説明できるほど単純ではない。同じ中年の米国人でも黒人やヒスパニック系の人々の死亡率は下がっている。彼らに比べ社会的にも経済的にも恵まれてきたはずの白人男性の「絶望死」が、死亡率の増加となって表れているようなのだ。
 先史の時代から18世紀まで人類の平均寿命は25〜30歳程度だったというのが本書の見立てだ。その後、上昇カーブを描く要因や背景を、行動(生活習慣)、環境、医学、生物学という四つのファクターを軸に解き明かしてゆく。
 むろん「平均」だけ見ていてはわからないこともある。近年はっきりしてきたことの一つに所得や学歴による健康格差がある。
 赤裸々にいえば、高い教育を受けた富裕層ほど健康で長生きする。親の所得が高いほど、子どもも高学歴になる傾向があるから世代を超えて受け継がれる恐れもある。この格差への処方箋(せん)が示されない限り、私は著者が唱える「健康改善運動」には懐疑的だ。
 例えば、加工食品が健康にもたらす影響は、その安すぎる市場価格に組み込まれていない、という指摘はその通りだ。とはいえ、富裕層しか手が出せない健康コストの組み込まれた商品が棚に並んだところで問題の解決にはつながらない。
 長寿を誇る日本でも所得の多寡による格差を示唆するデータがある。おそらくコロナ禍を経て状況は厳しくなっている。そのことも頭の片隅に置きつつ手に取ってほしいと思う。
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Jean-David Zeitoun フランスの内科医。専門は肝臓病学と胃腸病学。「ル・モンド」紙などにも寄稿。