【この記事で紹介する絵本】

せんせいとけっこんしたい! 『にんじんようちえん』

『にんじんようちえん』(作:アンニョン・タル、訳:ひこ・田中/ポプラ社)

「とげとげウサギの子」が新しいようちえんで出会ったのは、クマせんせい。クマせんせいはとても大きい。声も大きい。力もつよすぎる。ようちえんは面白くない。ぼくはようちえんに行きたくない。けれど……せんせいはぼくのつくった粘土のゾウをほめてくれた。にんじんキャンディもくれた! ぼくは、ようちえんが楽しい。せんせいとけっこんしたい!!

【編集長のおすすめポイント】

画面からはみ出るほど大きな「クマせんせい」、画面の隅のあちこちで好きなように動きまわる「ぼく」。クマとうさぎ、大人と子ども、にんじんとさかな。何もかもが全く違うふたりの世界。とても離れているようだけれど、うさぎの子は軽々と飛びこえていきます。自分に見える世界の中で、素直に懸命に毎日を過ごしている彼の姿を見ていると、気持ちが前向きになっていくようです。子どもたちの明るいパワーにあふれた1冊です。

どこがちがう? なにがちがう?『くらべるえほん たべもの』

『くらべるえほん たべもの』(作:ちかつたけお/学研プラス)

よく似ているたべものがふたつ。どちらもスイカに見えるけど、どちらもバナナに見えるけど。どこかがちがう。どちらもそっくりなお菓子だけど、どちらも大好物な料理だけど。なにかがちがう。このまちがい探し、かんたんそうに見えてむずかしい。むずかしいけれど、よく見て、よく考えれば、答えはちゃんと見えてくる。「ちがいを発見する絵本」なのです。発見できたら、今度はどんどん興味がわいてくる。なんだかワクワクしてきます。

【編集長のおすすめポイント】

きっと子どもたちは、見た目のちがいを発見するのは早いことでしょう。すぐにその違和感を口にして、喜び満足するはずです。子どもにはかないませんよね。でも、なにがちがうのかな? どうしてちがうのかな? 少し深堀りしてみるように促してみるのは大人の役目。出番です。お互いにすぐに答えが出なくても、一緒に考えてみてくださいね。最後にはちゃんと納得の答えを用意してくれています。うーん、もっと知りたくなってきたぞ。

はやく助けてあげなくちゃ! 『ぬいぐるみきゅうじょたい』

『ぬいぐるみきゅうじょたい』(文:ティエリー・ロブレヒト、絵:デイヴィッド・B・ドレイパー 、訳:川野太郎/‎岩崎書店)

雨がふる冷たい道に、クマのぬいぐるみがポツンとまいご。「ハロー、ほんぶ! おうとうねがいます!」見つけてくれたのは、ネズミのパトロール隊。クマくんは救急車にのってぬいぐるみ病院へ。やぶけてしまった右腕をネズミのお医者さんたちが丁寧に手当てをしてくれます。さあ後は、持ち主のルシアンくんのもとへ帰らなくてはなりません。そこで……。まいごのぬいぐるみをめぐって巻き起こる、頼もしくも愛らしい物語。

【編集長のおすすめポイント】

まいごになってしまったのは、ごく普通のクマのぬいぐるみ。けれど大きな街にぽつんと置き去りになった姿を見ていると、いてもたってもいられなくなります。なんてちっぽけな存在なのでしょう。はやく助けてあげなくちゃ! 読者みんながそう思った時に登場するのが、これまた小さな救助隊。自分たちが寝ている時間にどこかで起きているかもしれない、ささやかだけれどドラマティックな出来事。これこそ、絵本の世界の醍醐味ですよね!

きょう、風がかわった! 『はるいちばん』

『はるいちばん』(作:青山友美/講談社)

「きょうだ」女の子は家を飛び出し、一目散にどこかに向かって駆けていく。追い風に背中を押されながら漁港を抜け、大きな川も飛び越えて、山道やトンネルだって駆け抜ける。やがてその視線の先に見えてきたのは大きな灯台。その脇道をまわりこみ、女の子は手を広げる。そして……?なんて気持ちのいい絵本なのでしょう。主人公の女の子の目的はただひとつ。春一番を自分の身で受けとめ、つかまえること。

【編集長のおすすめポイント】

ひたすら一つの方向に向かって走っていく。シンプルなだけに、その疾走感がダイレクトに伝わってきます。けれど途中で見えてくるのは、女の子の住んでいる町の風景、生活、そして空気感まで。その温度や風の強さまでリアルに感じられるようです。それはきっと、作者が日常の暮らしを大切に感じながら制作をされているからなのでしょうね。どこにいたって「劇的な出来事」に出会うことができる。そんなことを思わせてくれる1冊です。

そっくりだけど、ぜんぜんちがう『うみとりくのからだのはなし』

『うみとりくのからだのはなし』(作:遠見才希子、絵:佐々木一澄 /童心社)

うみとりくはふたご。ふたりはそっくり。そっくりだけど、全然ちがう。ふたごでも、りくのからだはりくのもの、うみのからだはうみのもの。同じからだの人なんてひとりもいない。家族や友だち、どんなに親しくても、好きなこと、嫌いなこと、感じることはみんなちがうよね。自分のからだに、誰がどんなふうにさわっていいかは、自分が決めること。それは、特別だいじなところ「プライベートパーツ」だって同じ。だから……。

【編集長のおすすめポイント】

からだに対して感じている「モヤモヤ」は、大人になってもみんな違うもの。だからこそ、家庭の中での「性教育」はとても難しく感じてしまうのです。この絵本では、その違いを認めあうところから始まり、デリケートな性の話にいたるまでを、とても丁寧にわかりやすく進めてくれます。

「いやだ」「やめて」って いっていいんだよ。
「いやだ」って いえなくても にげられなくても ぜんぜん わるくないんだよ。

選ばれた優しい言葉の一つ一つに込められているのは、切実な問題。そして、どれも本当のこと。だからこそ、読めばそのまま子どもたちに伝わるはずだと確信できるのです。

いろんな家族があるけれど…『わたしのかぞく みんなのかぞく』

『わたしのかぞく みんなのかぞく』(作:サラ・オレアリー、絵:チィン・レン、訳:おおつかのりこ/あかね書房)

「自分の家族のとっておきの話を、みんなに聞かせてね」学校で先生が言う。でも何を話せばいいんだろう。だって、わたしの家族は他とちがうから。けれど、クラスメイトたちは次々に自分の家族の話を得意げに語りはじめます。あれ? 家族って思っていたよりもずっと色々な形があるみたい。みんなの話を聞いているうちに、少しずつ心がほぐれてきた「わたし」は、家族そろって出かけた時のことを思い出し……。

【編集長のおすすめポイント】

「自分の家族はみんなと少し違うのかもしれない……」そう思った時の不安や心細さというのは、計りしれないものがあるはずです。それでも誰かに自分の家族の話ができて、誰かに理解してもらうことができたなら、きっと少しずつでも前に進むことができるはず。さりげなく背中を押してくれるこの1冊。絵本の役割というのは、時代の変化とともに、さらに広がっているのかもしれませんね。

「た」からはじまる命のいとなみ 『た』

『た』(作:田島征三/佼成出版社)

画面いっぱいに力強く書かれたひらがらの一文字「た」。たがやす、たねまく、たちまち!! めがでて、たくましくそだつ。空には、ぎらぎらと光を放つたいよう。稲はたわわに実り、たいせつに刈り取り、たくわえる。「た」という言葉のニュアンスからイメージがつながっていくのは、古来連綿と続く人々の営みとその精神。そこには私たちが忘れてはいけない生きることの「原点」が隠されているのでしょうか。最後のページでそれはおいしそうに握り飯をたべる子どもの姿を見ながら、なぜか心の底が沸きたってくるのです。

【編集長のおすすめポイント】

「たべる」「たのしむ」「たすけあう」。「た」ではじまる言葉は、きっともっといくらでも考えつくことでしょう。でも、まずはこの絵本で選び抜かれた「た」と、その並び順を素直にそのまま声に出し、その感触を何度も受け取ってみるのがおすすめです。「た」から始まる言葉の持つエネルギー、子どもたちはどんな風に感じるのでしょうね。絵のイメージと混ざりあって、それぞれ独自の記憶となって残っていくのかもしれません。

ありふれた日常の愛おしさ『はっぴーなっつ』

『はっぴーなっつ』(作:荒井良二/ブロンズ新社)

わたしの耳は、ときどき遠くへ旅をするんだよ。ほんとだよ。朝早くにベッドの中で耳をすませば、きこえる、きこえる。とりの声や、やさしい風の音、明るくなる空の音に、配達の音。それからそれから……。タイトルの「はっぴーなっつ」は、幸福の「ハッピー」と、作者の荒井良二さんが子どもの頃から愛読されていたスヌーピーの「ピーナッツ」とをかけ合わせた造語。その表現も、コマ割りでユーモラスに描かれる部分と、明るい色彩で画面いっぱいに描かれた幸福感あふれる絵が交互に現れ、オマージュと個性が融合した、とても新しい表現となっています。

【編集長のおすすめポイント】

子どもたちにまず感じてもらいたいのは、毎年「春」がやってきて、毎日「朝」がやってくる、ということ。そして、その間にはたくさんの日常があり、たくさんの楽しみがあるということ。絵本の中では存分に味わって欲しいのです。時には一日が終わらないと感じることもあるでしょうし、変わらない日々に辛くてたまらなくなることもあるかもしれません。でも、季節はめぐってくるのだと知っていれば。朝は必ずやってくるのだと知っていれば。この絵本は、「待ち焦がれる」という喜びを教えてくれます。

出かける時にはこの1冊!? 『大ピンチずかん』

『大ピンチずかん』(作:鈴木のりたけ/小学館)

「ああ、もうダメだ。おわった。これは大ピンチだ!」きみがそう思うのはどんな時? よくあるピンチ、笑っちゃうピンチ、冷や汗のでるピンチからなぜか哀愁を感じるピンチまで。それぞれに「大ピンチレベル」や「なりやすさの5段階分類」、ちょっとした対処法までついている。この1冊で、もういつピンチが来ても大丈夫だ。……って、本当かな。笑っちゃうけど、意外と役に立つかも!?

【編集長のおすすめポイント】

人間、生きていれば、大なり小なり毎日ピンチはやってくるものです。ピンチがあるから暮らしが豊かになり、笑いも生まれるというもの。みんな同じ体験をしていますよ。……なんて、当の本人になったら冷静でなんていられませんよね。それはもう必死ですから。特にレベルが50を超えてきたあたりから、途方に暮れる表情にも深みが増してきます。とはいえ、やっぱり、「他人のピンチは面白い」ですよね。

女の子の視線の先に見えるのは? 『まって! まって!』

『まって! まって!』(作:近藤瞳/ポプラ社)

風がびゅーっとふいてきて、ぼうしがとばされた!「まって! まって!」女の子が追いかけるけど、ぼうしはどんどんとばされて。あともうちょっとなのに、追いつきません。どこまでいくの? 横長の形で切り取られているのは、女の子から見える景色だけ。大人はスカートやズボンで登場し、高いところにあるものはよく見えません。そのかわり、小さな生き物や植物はよく見えます。なんて愛おしい子どもの世界。

【編集長のおすすめポイント】

この絵本を読んでいると、子どもの頃、母のスカートをぎゅっとにぎって歩いていたはずなのに、ふと目をあげると全然知らない人だった! なんていう出来事を思い出します。そういえば、小さい頃の記憶にあるのはこんな景色。それでも大事な瞬間には、まわりの大人たちがさっとしゃがんで視界に入ってきてくれる。ちゃんと自分を見てくれている。そんな幸せな瞬間が描かれているからこそ、また最初からぼうしを追いかけてみたくなっちゃうのですよね。

さよならって、どうなるの? 『オーリキュラと庭のはなし』

『オーリキュラと庭のはなし』(作:前田まゆみ/アリス館)

静かな農園で育ったプリムラ・オーリキュラ。大切に育てられ、美しく花を咲かせる彼女だけれど、心の中では「ここじゃないどこかへいきたいな」と思っています。やがて町のお花屋さんに置かれたオーリキュラは、古い家に住むおばあさんの小さな庭に植えられます。そこでは色々な草花や木と出会うのですが、気がつけば庭は荒れ果て、はじめてお別れをする悲しさに直面します。自分も枯れていきながらも、大切な新しい命のために必死で花を咲かせようとしますが……。

【編集長のおすすめポイント】

大切なことは、だいたい後から気がつくもの。その悲しみや後悔が消えることはありません。それでも、その先に何を思うのか。どうしたら前を向くことができるのか。オーリキュラが最後の力をふりしぼり、空にむかって茎をすっとのばす姿を見ながら、勝手に色々な気持ちを重ね合わせて読んでしまうのです。可憐で繊細なだけではない、芯のある強い人になれたなら。いつか大人になった時、ふと思い出してもらいたくなる絵本です。

ぼくの時計はどっち?『「はやく」と「ゆっくり」』

『「はやく」と「ゆっくり」』(文:張輝誠、絵:許匡匡、訳:一青妙/光村教育図書)

朝からパパとママはぼくに言う。「はやく はやく」。起きた時、ごはんを食べる時、出かける時。夜寝る時も。ぼくは目が回るように忙しい。田舎のおじいちゃんとおばあちゃんはぼくに言う。「ゆっくり ゆっくり」。出かける時、森を歩く時、食べる時。まるで時計のない家に住んでいるみたいだ。ある時、おじいちゃんとおばあちゃんが家にくると、ぼくは「はやく」と「ゆっくり」の間にはさまれちゃって、どうすればいいのかわからなくなり……!?

【編集長のおすすめポイント】

「はやく」しないと間に合わないこと。「ゆっくり」じゃないと見えてこないもの。それがあることを知っているから、大人はついつい口に出してしまうもの。だけどそれって、なんのため? 一歩立ち止まって考えてみれば、きっと自分のリズムが見えてくるはず。「はやく」と「ゆっくり」。時間って意外ともっと自由なものなのかもしれませんよね。

絵本ナビ編集長がおすすめする「NEXTプラチナブック12選」はいかがでしたでしょうか。対象年齢も、あつかっているテーマもさまざま。気になった絵本があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。