「平成司法改革の研究」 [著]須網隆夫

 性犯罪事件が裁判員裁判の対象となるのは、いまの制度では、致死傷を伴う場合だ。裁判員制度が始まってからの2年間に、性犯罪事件を扱った裁判員裁判は、執筆陣の一人である平山真理の調査によれば208件あり、うち8件では裁判員の性別が男女いずれかに偏っていた。平山は本書で、こうしたジェンダーバランスの不備に加え、現行制度は利害当事者である被告人や被害者の視点も欠くと指摘している。
 この30年で、政治や行政の改革に続いて司法制度も様々に改革された。この本は、その司法改革の成果を共同研究によって検証する。一部を除いて当初の目的は達成されておらず、課題が多く残るというのが本書の結論だ。司法に容易にアクセスして、速やかに救済が得られる未来は遠い。
 法科大学院をつくり、司法試験合格者を年3千人に増やすプランが頓挫したのは、よく知られる。最高裁判事だった泉徳治は、本書で、法科大学院の課程修了で法曹資格を与えることを原則とし、抜け道になっている「予備試験」は廃止するよう主張している。
 平成の改革では、違憲審査に慎重な「司法消極主義」は放置された。政治学者である網谷龍介の章が刺激的だ。司法による立法審査に積極的な国は、裁判官を議会の特別多数で任命するなどして、司法にも民主的正統性をもたせる制度を採る。違憲審査制が専門家支配に堕さないようにする工夫だ。しかし、日本の議論では、司法の独立性と民主的正統性の調整というこの課題は重視されず、政治や市民の党派性を直視しないまま「国民的基盤というマジックワード」ばかりが強調されてきたという。
 本書のような取り組みは政策の事後検証のために重要だ。その意味でも、ここで米田憲市が指摘するように、司法制度改革審議会の議事録が首相官邸のウェブサイトから削除され、国会図書館のアーカイブにも文字化けが残るのは残念だ。
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すあみ・たかお 1954年生まれ。早稲田大教授(EU法・国際経済法)。共編著に『EUと新しい国際秩序』。