「ずるをしている」人に制裁をくわえようとする感情

 サンクションとは、たとえば税務署が脱税に厳しく目を光らせ、発覚した際には重い罰を与えるように、「ずるをしている」誰かに対して制裁をくわえ、共同体から追放しようとする行動です。共同体を維持するためにはとても重要な行動で、古来から人間の基本的な感情としてインプットされているものです。

 どうしてサンクションが生まれるのか。それを考えるために、まずは共同体がどのようにして維持されているかについてお話ししましょう。

 社会的生物である人間は、生きていくために共同体を作って暮らしてきました。ルールを決めて役割を分担し、それぞれがコストを負担して利益を生み出して、それを仲間で分け合って生活しています。たとえば国であれば税金を納める代わりに社会保障や、道路や水道といった整ったインフラが利用できるようになり、会社であれば労働の対価として給料が受け取れるわけです。

 しかし、なかにはルールを破って、コストの負担をせずにリターンを得る「ただ乗り」しようとする人がいます。そういう人は社会学の用語で「フリーライダー」と呼ばれます。フリーライダーが増えすぎると、まじめにコストを支払うメンバーがどんどん損をする社会になってしまう。仲間のなかにルールを守っているふりをしながら隠れて得をしている人がいるなら、罰を与えて追放するサンクションを実行しなければなりません。

「生殖コスト」が非常に高い現代日本で東出の不倫は…

 東出さんは、まさにこのフリーライダーの極みのような存在でした。東出さんの不倫があそこまでバッシングを受けたのは、子供を産んで育てるという「生殖コスト」が非常に高い現代日本で、「イクメン」のイメージありきで仕事をしていたからです。

 そもそも女性にとって出産は命を危険にさらすものです。そのうえ経済合理性だけを考慮すれば、いまの日本で子供を産んで育てることには相当な覚悟が必要です。出産のために仕事を辞めたり、育児休業や時短勤務で仕事をセーブするなど、なんらかの犠牲を払わなければならない人がほとんどでしょう。場合によってはベビーシッター代も必要になりますし、子供が大きくなってからも学費がかかります。「いじめ」に遭わないかどうか、子供が危険な目に遭わないかかどうかなど、精神的な負担を感じる親御さんもいるでしょう。

 多くの人は、そうした非常に高い「生殖コスト」を支払って結婚・出産をしている。子供がいない夫婦であっても、家庭を維持するための面倒ごとを背負って、子供がいる家庭よりも多くの税金を払うというコストを引き受けています。恋愛やセックスを楽しむには、それ相応のコストを支払う必要があるのです。