日本に残された「色街」の現場はどうなっているのか――。つい4年前、新聞で女性に売春を強要していたと報じられた温泉地の“夜の街”から見えたのは、コロナ禍に揺れた新しい現実だった。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)などの著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が、現地を歩いた。(全2回の1回目)


筆者が歩いた夜の伊香保温泉の様子 ©八木澤高明

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温泉地で摘発された「売春強要」事件

 織田信長の鉄砲三段撃ちで知られる長篠の戦いに従軍した武田方の将兵たちが、戦によって受けた心と体の傷を癒すために整備されたという伊香保温泉。それから450年近い年月を重ね、行き交う人々の装いは変われど、温泉に魅了される人々の心は変わらない。コロナの流行が終わる気配をみせない時期でも、歴史ある石畳には多くの観光客の姿があった。

 300段以上あるという石段は、ライトアップされていて、温泉宿から流れ込んでくる湯気が、旅情を掻き立てる。そんな景色に身を置いていると、このまま温泉にでも入って、のんびりしたいなという気分になってくる。

 私が伊香保を訪ねたのは、今から4年前に起きたとある事件と色街としての温泉地に興味を持ったためである。

 事件とは、2016年の11月から12月にかけて、伊香保温泉のスナックで就労資格のないカンボジア人女性7人に売春を強要し、入管難民法違反の疑いで日本人2人とタイ人女性ひとりが逮捕された件のことだ。

 事件を報じた産経新聞によると、日本人の男2人は伊香保温泉にある店舗不詳の風俗店で、タイ人の女は沼田市内の飲食店「GOLD」でカンボジア人女性たちに売春を強要していたという。