1992年(83分)/ケイエスエス/4180円(税込)

 おかげさまで本連載は十年目に突入した。ここまで長く続くとは――感慨無量だ。

 取り上げてきた作品の幅広さだけは、我ながら胸を張ることができる。不朽の名作もカルト作品も、大作も低予算作品も、娯楽映画も文芸映画も、時代劇もアニメも、やくざ映画も特撮映画も、アイドル映画もピンク映画も。あらゆるジャンルを扱ってきた。

 特に、「ミナミの帝王」シリーズを重宝している映画連載は、そうないのではないか。

 このシリーズはミナミの高利貸・萬田銀次郎(竹内力)を主人公に、Vシネマと劇場版を合わせて全六十作が作られてきた。話のパターンは基本的に同じ。銀次郎の債務者たちが裏で悪党たちに騙されて苦しめられている。それに対して銀次郎が、機転と押し出しの強さと法律の知識をもって悪党と対峙し、債務者の分も含めて彼らから合法的に大金を分捕ろうとする。

 勧善懲悪の物語展開と人情味と、「悪党がさらなる悪党を追いつめる」という毒。これが合わさることで、毎回の展開がワンパターンでも飽きずに刺激的に観られる上に、観終えてスカッとして後に何も残らない。そのため疲れた週末の時間潰しにピッタリ。――ということで、本連載ではこれまで三作を扱ってきた。

 そこで、今回は第一作『ミナミの帝王 トイチの萬田銀次郎』を取り上げたい。

 債務者親子の裏に隠された人情噺と、それを食い物にする悪徳金融との対決。既に一作目から物語のパターンは確立されている。一方で、今になって改めて観返してみると、新鮮な印象を受けたりもする。

 貫禄たっぷりの風貌、凄味のある声、ピンチにも動じない。それがシリーズを通しての銀次郎のイメージ。が、本作の段階では青さが漂うのだ。

 やくざの事務所に乗り込んでも「小銭稼ぎのチンピラ」と侮られ、債務者には「あんたも大変やろうけど、ウチもキツイんですわ」と弱みを見せる。しかも、やくざに挑発されると、後のシリーズでは余裕をもって受け流すのだが、ここではストレートな怒気を表情や言葉の中に隠さない。

 そんな青い銀次郎、今の竹内のいかついド迫力の雰囲気を思い浮かべるとミスマッチと思われるかもしれない。が、当時の竹内はまだトレンディドラマに出たりしていた時期からそう経っていないのもあり、風貌も口調も爽やかな好青年の感じが残っているのだ。そのため、この青さのある銀次郎にピッタリだった。

 まだ駆け出しだが切れ者でもある青年が、知恵と度胸で巨大な敵に颯爽と立ち向かう。そんな、後のシリーズとはまた違った魅力を本作では味わうことができる。

(春日 太一/週刊文春 2021年6月10日号)