1960年(66分)/ディメンション/4180円(税込)

 この六月と七月は、旧作邦画の新譜DVDが大豊作。今回取り上げる『ある脅迫』も、この六月に待望のDVD化がなされた一本である。

 かつて日本映画には「シスターピクチャー」と呼ばれる作品群があった。これは、当時の主流だった二本立て上映のための添え物的に作られた低予算の中編映画のこと。そのため、担当するのは新人や若手監督がほとんどで、出演者もスターはまず出ない。こうした作品で監督や俳優たちは経験を積み、映画会社も彼らの能力を試していた。

 本作も、そんな「シスターピクチャー」の一本で、上映時間は六十六分と短い。監督は当時まだ若手であった蔵原惟繕(これよし)。といって侮るなかれ。後に日活のエース級になり、さらには『南極物語』などの超大作も担う大監督となる蔵原の才能の片りんは垣間見える――どころか、その栄光に満ちたキャリア全体を通じても屈指といえる傑作なのだ。

 舞台となるのは新潟銀行の直江津支店。頭取の娘と結婚して順風満帆の出世ルートに乗る次長の滝田と、その幼馴染でありながら出世に遅れて庶務課の平行員のままの中池という対照的な二人の銀行員を軸に物語は展開していく。

 この二人を演じる俳優が凄い。滝田は金子信雄、中池は西村晃。この二大名優が素晴らしい激突を見せてくれるのである。表向きは清廉潔白に見せながら、実は裏で悪事に手を染め続けるエゴイストの滝田を厭らしさ抜群で演じる金子。対する西村は、惨めでうだつの上がらない中池を情けなさ一杯で演じる。いずれも「これぞ!」という名演だ。

 スターが出ないから、二人は引き立て役に回らないでいい。そのため、役柄は二人の魅力を存分に発揮できるよう設定されているし、物語もそれをたっぷりと堪能できる構成になっている。

 その物語が抜群に面白いのも嬉しい。実は滝田は過去に自身の勤める銀行で不正を働いていた。そして、そのことを知るヤクザ(草薙幸二郎)に脅迫される。滝田はヤクザに払う大金を得るため、深夜の銀行強盗に入る。その日の宿直は中池だった――。

 二転三転する全く先の読めない展開を、蔵原監督は情感を排して緩みの全くないハードボイルド感あふれる映像でスリリングに切り取っていく。

 そして、その中で二大名優が輝く。序盤から一転しての追いつめられた焦燥感を見せる金子と、弱々しさの向こうに不気味さを漂わせる西村。不穏さを膨らませていくにつれて微妙に変化する関係を、両者は完璧に演じてのける。

 スター不在をマイナス要因とせず、それを逆手にとることで最高の映画となった。

(春日 太一/週刊文春 2021年7月8日号)