《80年アイドル時代》なぜ天才・筒美京平は松田聖子と中森明菜に楽曲提供しなかったのか「聖子ちゃんが歌ったら、相性が合ったんじゃない」 から続く

 筒美京平は日本歌謡曲史上、最大のヒットメーカーだ。記憶に残るあの曲この曲、まさに名曲の宝庫である。

 しかし、筒美の素顔は秘密のベールに閉ざされていた。その秘密に分け入ったのが、生前親交があった音楽家の近田春夫氏である。近田氏による『 筒美京平 大ヒットメーカーの秘密 』(文藝春秋)から一部抜粋して、孤高の天才の創作の秘密を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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ジャニーズ事務所との蜜月

──80年代の京平さんといえば、ジャニーズ事務所との蜜月を語らないわけにはいきません。田原俊彦と近藤真彦には、彼らのイメージを決定づける楽曲を提供しています。 

近田 トシちゃんの声とマッチの声って、両極端ぐらいに個性が分かれるじゃない?  だから、あの2人がお互いの曲を取り替えっこして歌っても、あのよさは出ないんだよ。

──完全に当て書きですよね。

近田 マッチの方は、京平さんっぽさが薄い。「スニーカーぶる〜す」(作詞:松本隆/昭55)にしても、「ギンギラギンにさりげなく」(作詞:伊達歩/昭56)にしても、まっすぐで荒いロック調じゃない? それに比べてトシちゃんに書いた曲は、京平さんならではの女性性が生かされた柔らかいメロディーラインのものが多い。楽曲の構造としては、圧倒的にトシちゃんの曲の方が面白いんだよ。


近田春夫氏 ©文藝春秋

──トシちゃんに京平さんが提供した楽曲というと、「君に薔薇薔薇...という感じ」(作詞:三浦徳子/昭57)「原宿キッス」(作詞:宮下智/昭57)などがあります。そして、彼の復活の引き金となったダンスチューン「抱きしめて TONIGHT」(作詞:森浩美/昭63)も筒美京平作品でした。

近田 やっぱり、トシちゃんは踊る人なんだよ。マッチはあんまり踊る人じゃない。柔らかくしなしなと踊れるトシちゃんと、荒くぶっきらぼうな所作のマッチ、その双方の個性に合わせて曲を書き分けられる筒美京平は大したもんなんだよ。クライアントが何を望んでいるのか、それを敏感に嗅ぎ分ける能力に長けている。 

──言わば、プレタポルテではなく、オートクチュールのデザイナーなんですね。 

近田 ちなみに俺は、「ギンギラギンにさりげなく」の元ネタは絶対に「愛のコリーダ」(1980年)だと確信している。両方のサビを歌ってみたら分かるよ。

──あの曲、クインシー・ジョーンズによるヴァージョンが有名ですけど、あれはカバーで、オリジナルは英国人ミュージシャンのチャス・ジャンケルの作品なんですよね。