9月10日に全国公開された映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は、閉館を決めた映画館「朝日座」に現れた1人の女性が映画館を存続させようと奮闘する物語。再建には熱意とお金が不可欠だが、女性はもうひとつ、小さな嘘を携えて思いを遂げようとする。

 嘘が物語を動かす――タナダユキ監督は、どこか「嘘」に魅せられたかのようだ。

「息をするように嘘をつく、そういう人への憧れがあるのかもしれません。主人公の浜野あさひはある人との約束を果たすため“茂木莉子(もぎりこ)”と偽り映画館に現れます。支配人をジジイと呼んで悪態をつきながらも咄嗟に莉子になりきってしまう。でも彼女の気持ちや行動に嘘はないんです」

 人を傷つけない嘘。それはどこか映画的だ。

「架空の人物が、真夜中に照明が焚かれた場所で昼を演じる。真夏にコートを着て冬を感じさせる。いくつもの嘘を重ねながら、映画は人の喜びや悲しみといった“本当”を見せる。みんな莉子の嘘に気付きながらも、彼女の思いに衝き動かされていくのです」


タナダユキ監督 ©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

 浜野あさひを演じるのは高畑充希。朝日座の支配人には落語家の柳家喬太郎。そして、あさひに映画の素晴らしさを教える高校の恩師に、大久保佳代子をあてた。

「高畑さんは、風変りな役でも、こういう人いるよなぁと思わせる芝居ができる方だと思っていました。だからずっと仕事をしてみたかった。これまで名だたる俳優さんと共演されており、その凄さはわかっています。喬太郎師匠も大久保さんも俳優が本職ではありません。でも、だからこそこれまでとは違う高畑さんを見ることができる。それがとても楽しみでした」

 作品の隠れた主役が朝日座。98年前、関東大震災の年に建てられた、福島の南相馬に実在する映画館だ。1991年に閉館したものの、現在は地元有志により管理され2014年には国の登録有形文化財にもなった。

 タイル張りのもぎり窓口やペンキの剥げかけたカウンターなど、その味わいはスクリーン越しにも伝わってくる。

「この作品は福島中央テレビ開局50周年の企画として動き出しました。いろいろな土地で撮影場所を探し、ようやく辿り着いたのが朝日座です。震災の物語にしなくてもいいというお話だったのですが、津波と原発事故の被害を大きく受けた南相馬でいまも残る映画館を前にすると、その時間を経てもどっしりと建っている、その事実にしっかり向き合うべきだと思いました」

 監督は、コロナの時代となった今も脚本に反映させた。

「町を歩くと緑は美しく空気もおいしい。でもいまだに原発事故の避難指示が解けない場所もある。景色は変わらないのに生活は一変してしまった。コロナも同じで、見えないものに翻弄されて暮らしは苦しくなる一方です。それでも土地を離れることなく覚悟を決めて生活する人たちがいる。長い人生では誰も予想できないことが起きる。それでも投げ出すわけにはいかない、そういうことも映画を通して伝えたいと思っています」

たなだゆき/福岡県生まれ。2001年『モル』で監督デビュー。『ふがいない僕は空を見た』(12)、『ロマンスドール』(20)など作品多数。竹原ピストル、高畑充希がW主演する本作の続編ドラマは各種配信サイトで配信中。

INFORMATION

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』
https://hamano-asahi.jp/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年9月16日号)