オール読物2018年1月号 より転載


彩瀬まるさん

 自分の身体の一部をパーツのように外して恋人に贈る(「くちなし」)。美しい難民の子どもで「人形遊び」に耽る(「薄布」)。運命の相手に出会うと、その身体に咲く花が見える(「花虫」)──。彩瀬さんの最新作は、そんな幻想的な設定を、リアリティをもって繊細に描いた短篇集だ。

 たとえば、「けだものたち」では、女が獣に変化し、愛する男性を捕らえてばりばり食べてしまう世界が描かれる。恋愛を繰り返し、その度に男を食べる友人・スグリに対し、「私」は獣になることもなく、夫や娘たちと平穏に暮らしているのだが……。

「男性には男性同士の、女性には女性同士のコミュニティがあって、最近はそれをなるべく言語化したり、性別で分かたれないようにする志向があると感じます。それでもなお、外からはわからない各コミュニティの核心があると思うんです。片方で当たり前のことが、もう片方にとっては暴力的に映ることってありますよね。そういうディスコミュニケーションは、テーマとしてずっと自分の中にありました」

 獣に変化したことのなかった「私」がどのような境地に行き着くかは作品を読んで確かめてもらいたいが、「私の中で、『けだものたち』は、ハッピーエンドのラブストーリーなんです」。


『くちなし』 (彩瀬まる 著)/文藝春秋

 世界観の設定や幻想の度合い、登場人物たちが互いを理解するあり方が、短篇ごとに異なるのも面白い。

「まず“体のパーツが外せる”等の世界の設定を考えて、その中でどうしたら一番おもしろい景色が見られるかを考えました。『薄布』は、それほど現実から遠い世界ではなく、何か社会情勢に変化が起こったときに起こりうる世界として書きました。初恋の男性と再会し、彼の恋を後押しする『愛のスカート』は、非現実的な設定ではないのですが、これだけ様々なファンタジックな世界を書く中に現実的な物語を入れておくと、その“現実”も、いろんな世界のうちの一つに感じられると思ったんです。自然界の形態や社会のルールに振り回されるという感覚は、現実でも同じですから」

 思い切った世界観で、彩瀬さんの新境地といえる短篇集となった。

「もともと、現実ではありえないような光景を書くのが好きで、デビュー作も、人の肌に植物が生えていく話でした。でも、当時は、その不思議な世界設定に、現実的な感情の流れを乗せる力量がなく、単に美しい世界を書いただけになってしまったんです。最近やっと、以前からずっと書きたいと思っていたものが書けるようになってきたと感じます」

あやせまる/1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、デビュー。著書に『やがて海へと届く』等。

(「オール讀物」編集部)