5月20日に封切られた『ハケンアニメ!』は、涙ではなく、汗についての映画である。

 ポップで軽快な主題歌が流れ、アニメの名台詞の引用が飛び交う予告編は、この映画を若い監督と人気俳優たちによる新世代のカルチャームービーに思わせるかもしれない。でも実際のところ、これはアートやカルチャーではなく、労働についての映画なのだ。

 正直に言えば、この映画は公開初週から観客動員数トップ10入りを逃している。人気作家辻村深月の原作の知名度と公開規模から言えばかなり手痛い結果だ。予告編が与えるポップで洗練された映画のイメージは、必ずしも観客の事前動員に繋がらなかったと言える。

 だが一方でSNSでは、公開された20日金曜日の夜から半月が経った現在に至るまで、映画を見た観客からの賛辞があふれ、各種映画サイトの評価投稿では邦画として極めて高い得点と、熱いレビューが投稿され続けている。

中村倫也と吉岡里帆の“直接対決”

 この映画の中心には、中村倫也と吉岡里帆という二人の俳優がいる。原作では二人のアニメ監督、王子千晴と斎藤瞳は群像劇の中で別々の章に登場する人物だ。

 だが映画版の『ハケンアニメ!』の脚本は、この二人の距離を原作以上に縮め、女性演出家の斎藤瞳と、彼女にアニメ制作の道を進むのに絶大な影響を与えた王子千晴の直接対決を描く構図に変更している。


吉岡里帆 ©時事通信 

 吉岡里帆が演じる女性演出家・斎藤瞳の目には、中村倫也が演じるカリスマ演出家・王子千晴に対する崇拝と共に、明らかな反発の感情がある。

 実は映画の中で、斎藤瞳にとってなぜ王子千晴は単純な憧れの先輩演出家ではなく、ほとんど演出家としてのアイデンティティをかけて真正面から挑み、記者会見の場で「負けません。全部勝って『覇権』を取ります」と打倒宣言しなければならない存在なのか、という理由はセリフでは説明されていない。だがそれは、映画の中で彼らが作るアニメ作品を見るうちに自然にわかってくる。

 鬼面人を驚かし、ファンにカリスマ視される王子千晴の作品は、ある意味では表現至上主義。子供向け少女アニメの時間帯の制約をものともせず、必要ならば最終回でキャラクターを皆殺しにすることも厭わず、納得がいかなければ監督降板も辞さない天才肌の演出家だ。

 彼に大きな影響を受けながら、彼の新作『運命戦線リデルライト』と同時間帯に激突する『サウンドバック 奏の石』を初演出する斎藤瞳の作風には、ロボットアニメでありながらどこかヒューマニスティックで、温かい感触がある。