「文藝春秋」10月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年9月21日)

最近、自動車の「あおり運転」による死亡事故やトラブルが大きな話題となっています。

 2017年6月5日、神奈川県の東名高速道路(下り線)上で、あおり運転によって道をふさがれた自動車に乗っていた夫婦が、後続トラックに追突され、死亡するという痛ましい事故がありました。

 今年8月10日には、茨城県の常磐自動車道で、あおり運転の末に男性を殴ってケガをさせたとして、宮崎文夫容疑者(43)と同乗者の女性(51)が逮捕されました。ドライブレコーダーに記録されていた凄まじい暴行の模様は、メディアに繰り返し取り上げられています。


常磐道のあおり運転後、逮捕された宮崎文夫容疑者 ©共同通信社

「怒り」の感情は私たちのDNAに刷り込まれている

 よく「ハンドルを握ると人格が変わる」と言われますが、いったいなぜ人は「あおり運転」に走るのでしょうか?

 あおり運転を含め、暴力行為の背景には、「キレる」という感情――瞬間的に喚起される強烈な怒り――があります。

「じつは怒りの感情は、私たち人類を含む多くの生物が進化の過程で獲得した、生存に必要不可欠な感情のひとつです」

 脳科学者の中野信子氏は、そう指摘します。

 天敵や縄張り争いをしているライバルに出くわした時、瞬時に血圧や血糖値を上げ、集中力を高めることによって、いつでも攻撃や全力疾走に移れるようにしておくことが、生存に適応的だったのです。

 長い進化の過程で獲得した「怒り」の感情は私たちのDNAに刷り込まれ、いまだに私たちを突き動かしているのだと言えます。