沈みそうなタイタニック号で「武闘派」が船長に

 横倉さんからいったんは禅譲を受ける流れにあったとされる中川俊男さんは、代議員票数の少ない北海道医師会の出自ながら、大正義・東京都医師会の尾崎治夫さんらの後ろ盾を得て出馬を強行。この中川さん、医師会の中では文字通り「武闘派」であり、中医協(中央社会保険医療協議会)など政策決定の場では厚生労働省や財務省、政治家を相手に歯に衣着せぬ論評を繰り返して大立ち回りをされるなど、まあいろいろむつかしいところがおありです。支援する東京都医師会の尾崎さんも、非常に闘争心溢れる人物であることは知られており、かつて急進系左翼で鳴らした御仁であることも考えると、政権や霞が関と喧嘩をしてでも医療機関の要求は通そうとされるでしょう。

 ただ、いかんせん関係先の人望という点では横倉さんのほうが圧倒的過ぎて、派手に中川さんが論争を繰り広げたところで永田町も霞が関もあまり話を聞いてくれないのではないかという不安はつきまといます。日本の社会保障という沈みそうなタイタニック号で、このコロナ禍最中の大変な時期に「選挙の結果、過激な船長に交代しました」とか言われると乗客としては泣きそうになります。もしも横倉さんが5選されるようでしたら、次は是非引き継いでも問題なさそうな後任候補の育成にも目くばりしていただければとも思います。

国民皆保険制度を現代化していくために

 そして、取り組むべき真の問題は、会長選挙の向こう側にある「超高齢化時代に、大きく変わる日本の医療システムをどうデザインするのか」であります。「横倉さんと中川さんの遺恨試合」みたいな次元で話で終わらせることなく、日本人の健康を担う医療界全体のガバナンスをどないするねんという全体像を日本医師会の中だけでなく日本人全体に見せていかなければならないのです。

 何がヤバイって、コロナウイルスのお陰で医療機関が経営危機にどんどん陥ってしまう。あるいは、感染症対策としていままで最前線で受け止めてきた保健所の予算は減らされ続けてきた。さらには、調剤薬局との関係、歯科医師の取り扱い、診療科や地域の偏在に関する問題、どんどん高度化する医療機器や高額になる先進薬の問題――。日本の国民皆保険制度は大変うまく機能してきて、これらを支えてきたのは医療関係者たちの献身的な努力の賜物であったわけで、これを現代の状況や技術の進展にあわせて将来像を作り、そこへ向けて改革していくためにこの会長選挙をどう位置づけるのかを考えなければなりません。

 どうも我が国はこういう組織が培ってきた「見えない資産」をうまく継承する仕組みが苦手で、都度都度トップに立った個人の資質に依存しすぎているきらいが強いと思うんですよね。

 もちろん、そもそもタイタニック号は氷山にぶつかるなよという問題でもあるのですが。

 よけろよ。

(山本 一郎)