母親たちの背景にある生育歴の問題

 では、実際にはどのような親がどのような理由で子どもをゆりかごに託すのか。

 慈恵病院ではゆりかごと並行して予期せぬ妊娠に対応するSOS電話相談を行っている。ここには、陣痛が始まった女性が自宅からかけてくることは珍しくない。妊娠した相手の男性や家族に妊娠を打ち明けられず、ゆりかごに助けを求めるのだという。電話が切れないように励ましや支えの言葉で時間をつなぎながら、情報を聞き出し、女性の居住地の消防署に連絡して救急車の手配を要請する。

 ゆりかごとSOS電話相談の責任者・蓮田真琴さんは、蓮田健副院長の妻だ。3年前からゆりかごに関わっている。この3年で預け入れられた25件のすべての現場に立ち会った。そのうち詳しく話を聞くことができた16人の母親との関わりから、ゆりかごにたどり着く女性たちの背景にある生育歴の問題に気づかされたという。以下の3つのケースをもとに説明してくれた。

【ケース1】出産を阻む親が原因で、こじれた環境に

 ある女性は家で一人で出産した赤ちゃんを、ある地域から新幹線で熊本まで連れてきた。赤ちゃんは5人め。第1子を妊娠した際に実親から中絶を迫られ、監禁されたり階段から突き落とされたりするなどの暴力を受けたことがトラウマとなり、第2子以降は親に明かさずに出産。2人めからの3人については子どもの存在を親に隠すため乳児院を頼ったが、いつかは手元に引き取って自分で育てることを希望していた。営業の仕事をしていて、第2子以降は同じパートナーとの間の子どもだという。しかし、子どもたちの存在を親に打ち明けるか、そうでなければ養子縁組をと児相から迫られる中で、第5子を妊娠。児相に妊娠がわかったら、なんとか3人の子どもたちを自分で育てる機会を探すことさえ認めてもらえなくなるのではと不安になり、育てることをあきらめてゆりかごを頼った。慈恵病院では通常、病院内に迎え入れることのできた母親とは、4、5時間は話をする。だが、この母親は「上の子がいるから早く帰りたい」と2時間ほどで去ったため、真琴さんは親との間にどんな問題があったのかを詳しく聞き取ることはできなかった。ただ、自分で育てたいという思いがありながらも子どもを社会的養護やゆりかごに託さなくてはならないというこじれた環境と、子どもを産むことを暴力的に阻もうとする実親との関係は根っこでつながっていると感じたという。