島さんは2年前、松戸市教育委員会に加害教師のわいせつ行為について調査を依頼した。以前地元で塾講師をしていた際、男子中学生から加害教師について「男子は全員股間を触られていて、他の先生たちも見ているのに何もしてくれません」と言われたことがあり、被害者は他にも数多いると感じていた。しかしその教師は数年前に退職し、呼出しに応じなかったとして、教委は書留を本人に送っただけで調査を打ち切ったという。(教委は「元教諭は退職し私人のため、調査権限がない」と回答)

 島さんは納得していない。

「加害教師だけでなく、犯行を把握しながら保身のために子どもを犠牲にして、何もしなかった人間が教育に関わっていることが許せないんです」

「性被害ではない」と思い込まされている

 こうした島さんの行動を、なぜ今になってと訝しむ人がいるかもしれない。

 性被害のトラウマ治療に長く携わってきた精神科医で臨床心理士の白川美也子医師は、次のように解説する。

「被害の渦中にある時は、心に傷を負ったとはっきり自覚していない人が少なくない。自分が受けているのは性被害ではないと加害教師によって思い込まされているからです。しかしその体験は、心の傷、つまりトラウマとなって残っています。そのトラウマが時間を経て、後遺症のような形で障害を引き起こす。その典型がPTSDであり、そうなってようやく被害が認識されるのです」

 白川医師の元にも、年月が経ってから診療に来る人が少なくないという。また、佐藤陽子・北海道大学大学院法学研究科准教授の論文によると、ドイツでは2015年、未成年者の性被害は満30歳まで公訴時効停止と法改正されたが、その背景には、子どもの性被害者のためのコールセンターに問い合わせた人の平均年齢が46歳というデータがあるという。それくらいの年齢になってようやく被害をはっきりと自覚し、人に話せるようになるということだ。

 白川医師は、スクールセクハラについて注意すべき点があると指摘する。

「子どもは性に関することを大人のように知っているわけではなく、言葉など、あらゆる不適切な性的な働きかけが性虐待になりうるし、トラウマとして残ることがあります」

定年間際だった教師は既婚者で娘がいた

 菊池真奈美さん(仮名、45)も、島さん同様、被害時に助けを求めたものの周囲の大人から黙殺され、その影響に苦しんできた一人だ。長野県松本市の公立小学校で4年時から6年時まで、担任男性教師に体を撫でられるなどの被害を受けていた。定年間際だった教師は既婚者で娘がいた。こう振り返る。