「今でこそスクールセクハラと呼べますが、当時はそのような言葉もなく、被害を伝える言葉が小学生では足りなかったし、どんなに訴えても親も先生も信じてくれなくて……。やがて黙って我慢するようになり、『誰も信じてくれないし、守ってくれない』という孤独感が心に根付きました」

 4年時にこの学校へ転校してきた菊池さんは、前の学校にはなかったルールにショックを受けることになった。授業中に担任から指されて答えられないと、校舎の周囲800メートルを走るか、国語の教科書を1ページ暗唱するかを選ばなくてはならない。後者を選ぶと、男子は担任の前に立って行うが、女子の一部は担任の膝に座らされる。そして暗唱の間、半袖半ズボンの体操着から出た腕や脚を撫でられ続けるのだ。

 菊池さんの印象では、発育の良い子と3人いた転校生がターゲットだったという。「転校生は嫌だと言えず我慢するだろうと思われたのかもしれません」と菊池さんは言う。

 菊池さんは最初のうち、走る方を選んでいた。しかし授業中に走らされるため、教室に戻ると授業が進んでいてまた答えられず、二択から選択させられるのを繰り返した。次第に諦めて、暗唱を選ぶようになった。

 他校を知らない同級生の多くは、以前からあったルールに疑問を感じている様子はなかった。むしろ膝に乗せられない女子は、菊池さんに対し「転校生で先生にかわいがられている」と言いがかりをつけることもあった。子どもの目にはえこひいきと映ったようだ。

「問題を解かされている時に、担任が机の前にかがんで『どうだ』と言いながらふくらはぎを触ってくることもありました。そういうことがいつ起こるかわからないので常に緊張していたし、しばらくお腹が痛かった時期もあります」

 菊池さんは両親に精一杯話したが、「先生がそんなことをするはずがない」「宿題もちゃんと出してくれるし良い先生だ」と聞く耳を持ってもらえなかった。菊池さんの父親は教員家系に育った教師だった。

担任が教室でお尻を出している異様さ

 冬のある日、菊池さんは偶然、ショッキングな光景を目にすることになった。放課後、校内の見回り当番だった菊池さんが教室の引き戸をそっと開けると、担任がズボンを下ろして座り、もぞもぞと動いていたのだ。何の行為かは理解できずとも、教室でお尻を出している異様さは彼女の目に焼き付いた。夏にも教室で、プールの授業で女子の脱いだ下着を担任が体に擦り付けていることがあった。他の教師たちに「担任の先生がおかしい」と伝えたが、彼らもまた「そんなことないよ、何言ってるの」と聞き流すだけだった。

 他者への不信感や孤独感を抱いて卒業した彼女は、中学では「いい子のまま」で高校は進学校に進んだが、突然摂食障害(過食症)となり、不登校になって退学した。