心身の症状は時限爆弾

 私がかつて取材した別の被害者で、心身の症状が後になって突然出たことを「時限爆弾が弾けた」と表現した女性がいるが、菊池さんの場合、最初の“時限爆弾”がこの時だったのだろう。前出の島さんもやはり高校で精神状態が崩れ、退学している。記事中のどの被害者も、時期や症状に個人差があるものの、こうした“時限爆弾”に苦しめられている。

 菊池さんは成人してからも、摂食障害や睡眠導入剤の乱用問題を抱えてきた。痴漢のような別の性被害にも繰り返し遭ってきた。いずれも性被害の後遺症として起こりがちなことなのだが、菊池さんがその原因に思い当たり、トラウマ記憶を人に話すことによって苦しみを解消できたのはつい最近のことだ。彼女は語気を強める。

「昔のことだからもう忘れなさいと言う人もいますが、精神や人間関係を崩壊させて、何十年も引きずるものなんです。簡単に忘れるなんて無理ですよ、絶対に」

 これまで数多のスクールセクハラ被害が生じては埋もれていき、被害者は人知れず苦しんできた。だが今、表立って発言し、風穴を開けようとする人が出てきている。

次世代のため声を上げる

 名古屋市で性被害や虐待などのトラウマを抱えた女性の自助グループ「ピアサポート リボンの会」を運営する、Thrive(スライブ)代表の涌井佳奈さん(44)。ピアサポートとは、同じ立場の人たちが悩みや問題を語るコミュニティのことだ。互いにアドバイスを求めたり意見したりはしない。涌井さんはその意義をこう語る。

「理不尽で苦しい経験を受け止められたことのない人たちが、蓋をしてきた思いを言葉に出し、他の人たちと共感しあうことで、否定してきた自分を認めて自分の力で傷を癒やしていけるのです」

 涌井さんは私立高校1年の時、放課後の校内で「花を活けてほしい」と頼んできた30代の男性教師から突然スカートの中に手を入れられ、「ディープキスはこうするんだよ」とキスをされた。教師にほのかな恋心を抱いていた涌井さんが放心状態になっていると、「僕が3年間彼氏だから誰にも言っちゃいけないよ」と一方的に口止めされた。

 ポケベルを持たされて夜間に呼び出されては、車やホテルでわいせつ行為をさせられた。「痛い」と涌井さんが言えば、「絶対良くなるから、君のためだよ」と諭された。