「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」

 菅義偉首相は昨年10月の所信表明演説でこう宣言した。

 菅首相の言う「全体としてゼロ」とは、工場などから出る実際の排出量と、植物や海洋など自然による吸収量が釣り合った状態のことを指す。だが、経団連の中西宏明会長が「短期的に実現することは難しい」と述べるなど、すでにその実現性は危ぶまれている。


 

 はたして、日本は温室効果ガスゼロを達成し、脱炭素社会を実現することが出来るのか。「文藝春秋」1月号では、日立製作所名誉会長の川村隆氏、三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏、キャスターの国谷裕子氏による座談会を開催した。

 まず、このタイミングで菅首相が「温室効果ガスゼロ」を宣言したことについて、どのように捉えているのだろうか。

ギリギリのタイミングで滑り込んだ

国谷 日本は、5年前に決めた2030年の削減目標26%を今年も据え置いたまま国連に提出するなど、脱炭素に後ろ向きな「環境後進国」とみなされていました。今回の宣言でようやくスタートラインに立ったといえるかもしれません。

川村 私の故郷の北海道でも気温が30℃を超えることが珍しくありませんし、ゲリラ豪雨や大規模水害などが身近な危機として頻発するようになり、多くの国民が「これからどうなるのか」と不安を抱えています。そうした中で、菅首相が決断したことはとても大事な、いいことだと思いますね。

小林 この問題は、もう待ったなし。かねてから環境への取り組みを重視してきたEUだけでなく、昨年9月には、中国の習近平国家主席までが「2060年までの実質ゼロ」を宣言しました。ジョー・バイデン氏の大統領就任によってアメリカもいよいよ環境重視に舵を切る。日本はギリギリのタイミングでうまく滑り込んだといえます。

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 2050年までに脱炭素社会を実現するためには、日本のエネルギーミックス(電源構成)のあり方を変えなくてはならない。総発電量の7割を占める石炭や天然ガスなど化石燃料からの脱却が急務である一方、二酸化炭素を排出しない原子力発電をどれくらいの割合で活用するかについての判断はきわめて重要であり、今後、国民的な議論に発展する可能性が十分にある。