新型コロナウイルス感染症流行対策の一環として、日本社会はついにリモートワーク体制に舵を切りました。職場のメンタルへルスを預かる産業医(精神科医でもあります)として、これは画期的な変化だと感じます。

 なぜなら、我々産業医が日々直面しているメンタルへルス問題、その背後に横たわっている最大の課題は、いわば「職場の三密問題」だったからです。

1、 緊密な人間関係

2、 上司や同僚との物理的な距離の近さ

3、 過密なスケジュール

 ここに「通勤地獄」を加えれば「四密」ともいうべき状況。時にはうつ病さえ誘発してしまう、このような厳しい労働環境に、長く日本の働き手はおかれていたのです。

 あなたが上司や先輩にあたる立場ならば、部下に対しては常に、期待と同時にもどかしさを抱いておられることでしょう。

 互いのデスクがひしめき合う「三密」なオフィス環境では、そうした想い、さらには同僚に対する不平不満・嫉妬のような負の感情まで、良くもわるくも当人にダイレクトに伝わり、無言の圧力となって、心理的ストレス要因として作用してきました。


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 その鎖から働き手を解き放つきっかけになったものこそ、コロナ禍におけるリモートワークだったのです。

 大企業がさきがけとなり、はやいところでは2020年2月にリモートワークの実施を決断し、3月、4月にはさらに多くの企業が在宅勤務体制に移行しました。

 この動きと並行して、リモートワークの課題、問題に対する相談も、我々産業医のもとに次々に持ち込まれました。

日本の労働現場では「想定外」だった“在宅勤務”

 それも当然です。出勤すること自体を美徳とし、評価対象にしてきた日本の労働現場において、全面在宅勤務などまさに想定外の事態でしょう。

 あらゆる仕組みが、従業員が社内に集結し、業務にあたることを前提としてつくられているのですから、在宅勤務を実現するためには、仕組み自体を一から構築し直す必要がありました。

 各家庭における脆弱な通信環境をはじめ、スペックの低いPCにセキュリティの壁や情報へのアクセス困難など、課題は山積みです。おまけに一夜にしてコミュニケーションの作法までが変わり、誰もが悪戦苦闘を強いられ、もがいていました。