『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(安田峰俊 著)KADOKAWA

 逃亡したベトナム人技能実習生たちとともに、近所の池で釣った小鮒の唐揚げと、道端の雑草の唐辛子あえをつつく。それが筆者の取材のスタンスだ。そんな距離感で書かれた本書からは、昨今大きな問題となっている外国人技能実習生たちの生々しい暮らしぶりが見えてくる。それはよく報道される「犯罪に走る危険な外国人」でもなく「搾取され困窮するかわいそうな弱者」でもない。異国である日本でどうにか生き延び、少しでも稼いでやろうという、たくましくも図々しい人間たちの姿だ。

 筆者が取材する技能実習生、とりわけベトナム人たちの行動は良くも悪くもバイタリティにあふれている。海を渡って働きに来た日本の労働現場が過酷で低賃金だとわかると、見切りをつけて職場を放棄し「逃亡者」となってしまう。かといって帰国するでもなく、在留カードを偽造してまでこの国で働こうとする。自らを「ボドイ(兵士)」と称し、フェイスブック上でコミュニティをつくり、偽造の車検証や銀行口座を売買し、法を意識することもなく、とにかく稼げる仕事に潜り込んでいく。ある意味で勤勉なのである。

 一方で利根川の河川敷でナンパに励んだりする若者らしさも見せたかと思うと、不法滞在のお尋ね者であるのに堂々と無免許運転をして事故を起こし、あっさり逮捕されたりもする。きわめて元気だが、行動は場当たり的で、幼い。

 筆者はそんな技能実習生たちを、知識や語学力も、情報の感度も低い「低度」外国人材と定義する。日本政府が本来歓迎したい、専門知識や日本語力を持った「高度外国人材」に対する造語だが、そんな「低度」の人々こそが、いま日本の労働現場で最も必要とされている。とくに少子高齢化や過疎化による人手不足に悩む地方の中小・零細の農業や製造業の現場は、彼らが支えているといっても過言ではない。だが、そのリテラシーの低さゆえに悪質な日本人業者の搾取の対象となるし、おとなしく黙ってはおらずボドイとなって自分たちの流儀で稼ぐのだというしぶとさも見せる。

 筆者は彼らの生身の姿を追い、日本のみならず中国やベトナムを歩き、やがて群馬県太田市に行きつく。豚の解体事件で有名となった現場のアパートに冷凍アヒルとライギョの差し入れを持って乗り込むと、ボドイたちと食卓を囲み、本音を聞き出していく。その息づかいや生活の様子は、現代日本人からするとだいぶ荒っぽい。だが生き抜く力強さに満ちてもいる。彼らは生まれ育った途上国ならではの、毒気も孕んだ上昇へのエネルギーを、この日本で自覚もなしに発しているのだ。

 そんな人々を、日本は単なる労働力として大量に輸入するばかりで、「人間」として向き合ってこなかった。そこに技能実習生問題の根本があることを、本書は教えている。

やすだみねとし/1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。2018年に『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』で城山三郎賞、19年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『さいはての中国』、『現代中国の秘密結社』など著書多数。
 

むろはしひろかず/週刊誌記者を経てタイに移住。現地の日本語情報誌に在籍し、タイ及び周辺国を取材。近著に『ルポ新大久保』。

(室橋 裕和/週刊文春 2021年4月15日号)