無視されたガイドライン

 日本郵便の組織としての対応にも欠陥がある。

 消費者庁が取りまとめた内部通報制度の民間向けガイドラインには、内部通報制度の通報窓口を整備して広く周知するだけでなく、通報者を守ることが制度を機能させるために重要だと、明確に書かれている。

 ガイドラインでは、通報者が特定されないよう配慮を尽くすのはもちろん、通報内容の共有範囲は最小限とし、通報を受けて調査に乗り出すときは、調査の端緒が通報だと知られないよう工夫することも求めている。定期的な調査に紛れ込ませたり、複数の郵便局に抜き打ちを仕掛けたりする手法も紹介されている。

 通報者の探索や通報者への不利益な取り扱いを禁止し、不利益な取り扱いをしたり通報を漏らしたりした場合は当事者を処分し、不利益の救済・回復を図ることが必要だとしている。

 では、福岡での事例はどうだったか。

 前述の通り、通報を受けた本社コンプライアンス担当役員が、調査対象者の父親に連絡を入れ、「複数からの通報」を知らせていた。たとえ相手が管理責任者でも、通報があったと調査開始前に知らせたことは、結果から見ても、ガイドラインの趣旨に背くのではないか。

 さらに、日本郵便本社には全国郵便局長会の元会長である専務(当時)がおり、統括局長とも親しいとみられていたため、内部通報文書には「専務には言わないで」とも明確に書かれていた。それにもかかわらず、この専務も早い段階で情報を共有し、通報者の一部に連絡していたことが判明している。

 通報者が「秘密にして」と懇願する相手でも、通報者の同意を得ることもなく、通報の事実や通報者の情報を即座に明かしていたのだ。これでは、通報制度の意味がないばかりか、通報は決してしないほうがいいと知らしめているようなものだ。

 通報者捜しに対しては、懲戒処分を出して統括局長の役職も解いてはいる。だが、処分の事実や降職の理由を社内でも明かしていない。通報者のほうは一部が局長会で除名となり、会社の役職を降りるよう迫られて心を患い、降職や休職に追いやられた者もいたが、そうした「不利益」を回復しようとした形跡はない。

 日本郵便は筆者の取材に対し、「(内部通報制度は)ガイドラインに沿って運用し、通報には適切に対応している」と回答した。ただし、個別の事例についてはコメントできないとし、非を認めることはなかった。日本郵便は元副主幹統括局長を含む7人に今年3月末、停職などの懲戒処分を出したが、組織としての課題はまだ検証中だとしている。