しかし、2021年1〜2月に世界保健機関(WHO)が中国と合同調査を行い、不充分な調査にもかかわらず「研究所流出の可能性は非常に低い」と公式に発表したことで、逆に「研究所流出疑惑」を深めることになる。

 専門家の間で批判の声が上がり、科学的に否定できないのだから、追加で調査すべきと指摘されたのだ。さらには時期を同じくして報じられた、 “疑惑”の数々も流出説を後押しすることとなる。

《中国が最初の感染例を発表する前に、研究所でコロナのような症状の患者が出た》

《研究所でコロナの機能獲得実験という危険な遺伝子操作が行われていた》

 これらは「疑惑」であり「未確認情報」だった。また、こんな疑惑もあった。

《米政府内や研究機関業界内で流出説を意図的に過小評価する圧力があった》

 これは一部にそうした事実があったようだが、あくまで一部の話にすぎない。その程度のことで科学的な議論をすべて封じられるわけもない。

《地元住民が似た症状で死亡する例があった村から研究所の関係者がウイルスのサンプルを持ち帰っていた》

 この話も注目されたが、それが今回の新型コロナに結び付いた科学的証拠は一切ない。

 しかしこうした流れから「研究所流出疑惑」ががぜん注目を集めるようになってきたことから、今年5月26日、バイデン大統領は米政府の情報コミュニティ(CIAやFBIなど全18の情報機関の総称)に対し、徹底調査して90日以内に報告するよう調査特命を下した。その結果、後にまとめられたのが冒頭で紹介した“あるレポート”なのだ。

 レポート内容については後述するが、バイデン大統領による調査特命自体が、「研究所流出疑惑」を後押しする要因にもなった。このあたりから、昨年とは逆に、研究所流出を強く示唆する情報が広く拡散していった。

 それも昨年の生物兵器説・人工説は親トランプ派のメディアや法輪功系メディア、タブロイド紙や陰謀論サイトなどで拡散されたのに対し、今年は「ウォールストリート・ジャーナル」「ニューズウイーク」「バニティフェア」といった政治的偏向色の薄い有力メディアも報じた。

 そのため、「やっぱり武漢の研究所から流出したウイルスだったのだ」と信じる人が大量に出た。たとえば7月11日に発表されたネットメディア「ポリティコ」とハーバード大学による米国内での共同世論調査では、自然発生を信じる人が28%だったのに対して、流出説を信じる人は52%に及んでいる。それだけ米国の人々は、それらの情報に“誘導″されたのだ。