それよりも注目すべきは、以下の具体的説明があったことだ。

《ほとんどの機関がおそらく遺伝子操作されていないと判断している。ただし、2つの機関はそれを判断する証拠はなかったと考えている》

《新型コロナ出現前に中国当局は、その存在を知らなかったと判断できる。したがって生物兵器ではない》

《4機関と国家情報会議(NIC)が自然発生説を支持。1機関が流出説を支持。3機関が判断保留》

 米国の情報コミュニティは18機関から構成されるが、コロナ起源を検証する分野の場合、軍の情報部隊などは関連がないので、おそらくそれ以外の主に8機関が動いたのだろう。その構成は不明だが、おそらくCIA、FBI、国務省情報調査局(INR)、国防総省国防情報局(DIA)、国土安全保障省情報分析室(I&A)あたりが中心になったと考えられる。

 今回、どの機関がどの説をとったかは非公開だが、「ニューヨーク・タイムズ」(8月27日付)によると、流出説をとったのはおそらくFBIではないかとのこと。また、CNNは同日、関係者証言として「判断保留した機関の1つはCIA」と報じている。

 なお、唯一、組織名が公表されている国家情報会議だが、これは各情報機関の情報を総合的に評価して、大統領への中長期的状況予測報告書を作成する組織のため、その情報分析はそれなりに包括性が高い。

 いずれにせよ、これらの記述から、米情報機関はどちらの説も否定はしないものの、全体としては自然発生説が優勢だということが言外に示されている。今回のバイデン大統領の特命は、事実上は中国の研究所からの流出の証拠を探す任務だったので、政治的立場としてはあまり自然発生説を推したくないところだろうが、国家情報長官室の担当者はこのわずか2ページの説明文に、明言しないかたちで流出説の過熱を鎮静化させる“ニュアンス”を盛り込んだといえる。

 なお、このバイデン特命調査報告書が妙な政治的意図で歪められず、科学界の議論とほぼ一致したことには、科学界でも安心の声が上がっているようだ。

 8月27日、ネイチャー誌は「米国コロナ起源報告:研究者たちはその科学的アプローチを歓迎〜情報機関の調査はウイルス起源を特定していないが、生物兵器ではなく、設計されたものでもないようだ」と題した記事を配信している。

 現時点でコロナ起源の真相はまだ不明だ。その最大の理由は、中国が情報を隠蔽していることにある。しかし、これはあくまで科学の分野の問題である。中国は当然非難されるべきだが、かといって短絡的に「コロナは中国が作ったはず」と決めつけられるものでもないことに留意すべきだろう。

(黒井 文太郎/Webオリジナル(特集班))