鑑定書を見た検察から「その記述は消すように」との指示が…“解剖医”が証言する旭川地検の恣意的な“死因究明姿勢” から続く

 病院の外で死を迎えた異状死体を扱う法医学者(法医解剖医)。全国で約150人を数える彼ら彼女らプロフェッショナルたちは、日々さまざまな解剖現場に立ち会い、死因を突き止めている。なかには凄惨な状態の死体もあり、その代表的なものが、死後、時間が経過した孤独死体だ。

 ここでは、国際ジャーナリストの山田敏弘氏による著書『 死体格差―異状死17万人の衝撃― 』(新潮社)の一部を抜粋。日本における死因究明現場から見た孤独死の実態について紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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ゴミ屋敷の中で

 東京都大田区にそのアパートはあった。

 数年前のその日、私は数日前に腐乱死体で発見された男性の自宅の清掃に向かっていた。孤独死が発生した後に遺体発見場所となった部屋を掃除したり遺品整理をする業者に密着取材をするためだった。当時、そうした業者がメディアでもよく取り上げられるようになっていた。

 アパートに着くと、すぐ前の道路脇に作業を担当する3人の男性がいた。作業員が勢揃いしたところで、全員が白い防護服を着用、それぞれが独自で持ってきた高性能防塵マスクを用意する。


※写真はイメージです ©iStock.com

 マスクは普通のサージカルマスクなどとは違って、防毒マスクのようなものである。私もこの取材のために防毒マスクを購入していた。

 朝の9時。「では始めますか」とリーダー格の男性が言った。

 そのアパートは2階建てで、それぞれの階に4部屋ずつあった。現場の部屋は、階段を上がって二つ目の部屋である。

 ドアの前にはこんな張り紙がしてあった。

「お友達が心配してアパートに訪ねてきました。不動産屋さんと連絡して話をしてもらいました。家にもどったら申し訳ありませんが、不動産屋さんに連絡してください」

 すぐ近くに住むアパート所有者である人物の名前が最後に記されていた。連絡が取れなくなった住民の身を案じて友人が訪ねてきたが、アパートの管理は不動産屋に任せているため、そちらに連絡をするよう手書きでメモを残していたのだった。

 作業員はその張り紙には目もくれず、ドアを開けて入っていく。

死因は熱中症

 部屋の中は、いわゆるゴミ屋敷。私はほかの孤独死の現場もいくつか取材しているが、ここと同じように、物が山積みになっているだけでなく、ゴミ袋に入ったままのゴミもたくさん放置されている部屋が多い。遺族や不動産屋が手を付けることができないから業者に依頼がくるのだ。

 部屋に入ると、鼻をつく独特の悪臭がマスクを突き抜けてくる。人間の腐敗臭だ。

 依頼者である不動産屋によると、部屋に住んでいたのは60代の男性。わかっているところでは、職を転々としながら、休みにはバイクで日本を放浪していたという。このアパートには10年近く住んでおり、6年ほど前に不動産屋が家賃の支払いの遅延で訪問した際、すでに、部屋の中がゴミだらけになっていることに気が付いたという。

 玄関を入ると、すぐに4畳半のダイニングがあり、右側にはトイレと風呂があった。奥にはまた4畳半の居間があるのだが、ゴミだらけで足の踏み場もない。中に入っていくのもひと苦労だった。

 住民男性は、奥の部屋で壁にもたれ座るような形で亡くなっているのが発見された。腐敗していたため、すぐに警察が呼ばれた。遺体は解剖され、死因は熱中症だったことが判明したのだという。

 その後聞いた話では、部屋の腐敗臭を消すために、遺品整理業者が独自に開発した液体を繰り返しふりかけて対処したというが、それも大変な作業だったらしい。遺族に返せる品物は引き渡し、それ以外はほとんどを回収業者が処分した。