このケースのような腐敗した死体は夏場に急増するという。気温が高いために、腐敗が進むペースも早い。そうなると死因究明も一筋縄ではいかなくなるのである。

 煮物を食べてから亡くなった男性と同居していた息子は、後日水死体で発見された。自殺だったと見られている。自殺の理由はわからないが、仕事をしておらず、父親の年金で暮らしていたことから、父親が亡くなったことで将来を悲観したのかもしれない。

妻と娘も同じ屋根の下で同居していたが…

 先に述べた通り、同居人がいても孤独で死亡するケースは少なくない。孤立していたのである。関東のある法医学者はこんなケースを担当している。

 男性は50歳代。一軒家の自室で死亡しているところを発見されたのだが、死後10日ほどが経っていた。男性が住んでいた家では、実は妻と娘も同じ屋根の下で同居していた。ただ妻によれば、夫は家で自室に引き籠もっていたのだという。食事などは台所に用意されているものを気が向いたときに取りに来て、部屋に運んで食べるという生活だった。しばらく姿を見なくても誰も気にしない、という家庭環境だった。

 遺体は、しばらく姿を見ていないと思った妻が部屋を確認したことで発見された。警察はもしかしたら事件の可能性もあるかもしれないということで、司法解剖が行われた。

 男性は、自宅にあるベッドの端に座って立ち上がろうとしたところで意識を失ったのか、下半身がベッドの外に出ている状態で、仰向きに寝ている状態で発見された。

 解剖を進めていくと、特に身体からは異状は見つからなかった。ただ、胸部の大動脈に豚脂様凝血という血の塊があったことから、気を失ってから、ゆっくりと亡くなっていったことがわかり、死因は凍死であることが判明した。

要介護の夫をネグレクトし、死亡させた妻と息子

 また孤独死では、こんなケースも起きうる。

 2006年に広島で寝たきり状態だった60歳の男性が死亡しているのが発見された。男性はその3年ほど前に脳内出血を起こして手術を受け、一命を取り止めたが、歩けなくなり、言語障害も残った。食事や排泄など身の回りのこと全般で介護が必要な「要介護3」に認定されていたという。

 その後、男性と一緒に暮らしていた妻と息子2人が逮捕された。介護がなければ生きられない状態の男性を、ネグレクトしたことで死亡させたという容疑だった。民間の介護施設の職員が訪問した際に、男性の遺体を見つけて通報した。

 この一件を報じた読売新聞によれば、遺体は一部白骨化しており、家族のネグレクトが悪質だとして、警察は家族を保護責任者遺棄致死容疑ではなく、「未必の故意」による殺人容疑を適用したという。「未必の故意」とは、明確に殺す意思がなくても、そのままでは死亡することを認めつつ放置することを指す。

 こういうケースでも、解剖は不可欠である。

 前出の千葉大学の岩瀬博太郎教授はこの事件について、「たとえば、糖尿病の患者にインスリンを打たずに放置し、高血糖発作で死亡させた場合には殺人や保護責任者遺棄致死になり得る」と述べる。しかし、きちんと解剖に回して死因を精査することなく、見ためや状況から考えて死因をよくある「心筋梗塞」などとして処理してしまえば、「犯罪の認定は困難になる」という。

【前編を読む】 鑑定書を見た検察から「その記述は消すように」との指示が…“解剖医”が証言する旭川地検の恣意的な“死因究明姿勢”

(山田 敏弘)