警察へ通報され再び入院する事態に

 そして、またもやお兄さんが警察に通報されてしまう。ある日、母親の定期預金を引き出そうとして限度額超過から行員に拒否され、騒ぎを起こしたことが原因だった。

 そのまま精神科に医療保護入院。母親の様子を見て、ようやく認知症の進行に気づいた斎藤さんは、地域の高齢者サポートセンターの担当者に相談することにした。

「お母さんの顔が能面のように表情がなくなっていますよね。今回のことを、障害を持つ息子さんによる高齢者への精神的・経済的虐待事案だと私たちは捉えています」

 担当者の言葉を聞いて、斎藤さんは慄然としたという。これまで長女である自分を母親は疎んでおり、長男がかわいいから全財産をあげようとしていると思っていたからだ。まさか、彼女の認知症が急激に進行して判断能力を失った結果、お兄さんに財産を奪われ、苦境に追い詰められていたとは思いもしなかったという。

「家庭崩壊」はいつ起きるかわからない

「母は要介護2と認定され、これ以上、2人を一緒にいさせるわけにはいかないと、すぐ老人ホームを探しました。兄の事件と入院により、母の認知症の深刻さに初めて気づくことができたのです。それ以前の私は感情的になり、もう2人にはなるべく関わらないと決めていました。2人で好きなように生きればいいと。でも、今は母を見守ろうという気持ちに変わりました」

 最後にお兄さんに対しての思いを聞くと、次のように答えてくれた。

「兄は病気になってから、ずっと親に甘やかされて生きてきました。躁状態のときに事件を起こしても、ぼんやりとしか覚えていない。数カ月して退院してきたときには、私や両親がすべての後始末をやったことを悪びれもせず、何もなかったかのように戻ってくる。

 本当なら、自分がやったことを自覚させる必要があったと思います。自分の行いを見つめ直すことで、病気と向き合うこともできたはず。でも、両親は兄に好きなようにやらせるだけで、何も反省させることはなかった。

 ある意味ではかわいそうな人生だと思いますが、私はもう兄とは縁を切るつもりです。ただ名義変更された母の財産は全額が使われてしまったわけではないので、兄に返却を要求しています。今度こそ、退院後は1人で自立した人生を送ってほしいと願っています」

(佐久間 真弓)