その後も悪くない感じで地形は推移した。

 前日見えたガレの小ピークを右から越えてさらに北に進むと、左手に西に下っていく小さな谷が現れた。そのうち東のほうに別の小ピークがあるのが薄ぼんやりと見えてくる。これだけピークがあるということは、やはり〈中央高地〉で間違いない。そう思われた。砂利混じりのザレた雪面を突っ切ると、また西にむかって下っていく谷が現れた。もし自分の地形読みが当たっていれば、この谷を下れば完璧な正解ルートすなわちアウンナットに向かう谷にはいり込めるはずだ。その推測はおそらく7割方まちがいないと思われたが、それでも完璧に読み切れていると断言できる自信はなかったので、安全策をとってそのまま北上した。そのうち砂利混じりだった足元がだだっ広い雪面に変わり、途中、両側が小高い尾根に囲まれ門のように狭くなった個所を通過した。どうやら私はどこかの谷に入りこんだようだった。

雪の降る暗闇の中、単純な肉体労働が続く

 翌日の出発時、背後の南側の様子を確認すると、前日越えた門のような個所が地平線の下から染み出てくる陽光の痕跡のような薄明りに照らされて、ぼんやりと姿を現した。

 どこかで見た光景のような気がしたが、よくわからないのでそのままスルーした。

 そしてそのまま昨日入りこんだ谷らしき雪面を下った。しばらく進むと谷はきわめて広大無辺なだだっ広い感じとなり、暗くて雪も降りはじめ、再びよくわからない状況となった。夏の間に水が流れているだろう谷筋を歩いているつもりだったのが、谷があまりにもだだっ広くて広漠としているため、いつの間にか岸に乗り上げて尾根に向かってぐいぐい登っていたりした。岸の傾斜もきわめてなだらかなので、自分が上りに差しかかっていることさえわからないのだ。

 もしかしてここはもう谷ではないのではないか。そんな錯覚さえ覚えた。

 私はヘッデンの光量を最大にして谷筋をなんとか見極めて下った。谷筋を外すと気づかないまま陸地に乗り上げ、変なところに出てしまう恐れがあった。後ろからゼーハーゼーハーという犬の荒い息づかいが聞こえてきた。雪の降りしきる真っ暗な闇のなかで、私はヘッデンが照らす雪面の一点を注視しながら、犬の呼吸音のリズミカルなサウンドに乗って単調な肉体運動をつづけた。谷は相変わらずだだっ広く、谷なのかどうかさえ怪しいほど広漠としていた。腰のウエストポーチに取り付けたべアリングコンパスで谷筋が向かう方角を確かめると、大体、真方位で30度ほどだった。

 あれ、と私は思った。

 そのときじつは私は、自分がアウンナットに向かう正しい谷、すなわち本谷から東に3キロほど離れた支流に入りこんでいると想定していた。この想定にはかなり自信があったのだが、しかしこの支流に入りこんでいるのであれば、谷筋はほぼ真北、つまり0度の方角に向かっていなければならない。それが何度コンパスを確認しても必ず30度なのだ。