「誰かと無性にセックスしたい」

 とにかく、幸子さんは「ぶわっ」と湧いた欲望を持て余していた。誰かと無性にセックスしたい。誰かに触れてほしいし、抱き合いたい。ふと気がつくと、はるか昔、夫と結婚する前に付き合っていた人の連絡先を無意識にスマホで漁っている自分がいた。「私ったら結婚してるのに何やってるんだろう」――慌ててスマホを投げ出し、踏みとどまった。

 思えば夫とは20年以上、夜の生活はご無沙汰だった。

 夫は大病を患ってからというもの、セックスしたがらなくなった。どうやら、勃起しないことも気にしているらしい。それでも、何度か夫を誘ってみたことがある。

「旦那に夜の営みの打診はしたことがあるんです。挿入がすべてじゃないし、最近だと抱き合うだけのセックスもあるみたいよって。でも要は、旦那は自分中心なんですよ。昭和の人間だからか、相手を気持ちよくさせてあげようという奉仕の心がない。自分が気持ちよくないとつまらないみたい。結局私がフェラとか手でやってあげるばっかりになっちゃって、興ざめして疲れちゃった。私はやりたいけど、あまりしつこくも言えない。家庭の雰囲気も壊れるからもういいやって、この人に何を期待しても無駄だって、諦めたんです」

――それにしても40代後半にもなってこんなに性欲が出てくるなんて、私ってちょっとおかしいのかもしれない。

 そう思った幸子さんは、ネットで中年期の女性の性欲について検索することにした。ネットの情報によると、自分の身に起こった衝動は決して異常なことではないらしい。女性ホルモンの関係で、中年になって性欲が強くなることもある。そして、あるサイトでは女性の性欲解消の手段の1つとして女性用風俗を紹介していた。そうはいっても、これまでの結婚生活で1度も不倫したこともないし、ましてや風俗なんて男がいくものじゃないの。そう思った。

 そもそもバブル世代真っ只中で、その時代を駆け抜けた幸子さんにとって、食事やデート代などは男性が支払うのが当たり前だった。そのため、自分が男性にお金を払うという行為にまず葛藤があった。若い頃、男性にモテモテだったのにというプライドが頭をもたげてくる。それでも1度燃え上がった悶々とした衝動は、いくら待っても収まることを知らない。背に腹は代えられない――。そう思った幸子さんは、意を決して女性用風俗の利用を決めたのだった。

 それは、普通の主婦として生きてきた女性の性をめぐる「大冒険」の始まりだった。