西崎孝宏さん(仮名、45歳)は中国地方の某都市に住み、印刷関係の自営業を営んでいる。実家は市街地から少し離れた郊外にあり、親戚にも同じ地域に住んでいる人が多いという。

 数年前、そこへ定年退職した本家の長男が約50年ぶりに東京から戻ってきた。西崎さんにとっては叔父にあたる人物だ。

「叔父は現役時代、大手通信会社一次下請け企業の部長でした。定年になったあとも定年後再雇用制度を使って仕事を続け、65歳になったのを機に夫婦で地元に戻ってきたんです」(西崎さん、以下同)

 久しぶりに故郷に戻り、夫婦水入らずの引退生活。普通なら趣味に没頭したり旅行したりと、悠々自適のセカンドライフを楽しむところだろう。ところが、西崎さんの叔父は違った。

「50年ぶりに戻ってきて地域のことを何も知らないのに、なぜか自分から町内会の会長に手を挙げたんです。叔父は親戚の集まりでも『俺は大企業の部長だ』と自慢していたプライドが高いタイプ。小さな町といえども、自治会のトップには『仕事のできる自分がふさわしい』と思ったのかもしれません」

 しかし、会社と違って町内会の仕事は地域のお知らせを印刷して配ったり、お祭りを運営したりする程度のもの。むしろ重要なのは地域共同体におけるコミュニケーション能力だ。

「それなのに、叔父は『部長だった自分は仕事ができる』『お前らは何もできない田舎者だ』と言わんばかりの態度で、いつも上から目線で意見を言っていました。しかも、エラそうに言うわりに自分は何もせず、実務はほかの役員たちに丸投げ……。

 おそらく現役時代もそうやって会社の部下にウザがられていたんじゃないでしょうか。あっという間に町内会から総スカンを食らい、半年も経たないうちに誰も叔父のことを相手にしなくなりました。結局、町内会長の仕事も投げ出しましたよ」

次は、家族がターゲットに

 現役時代の肩書が忘れられず地域社会で浮いてしまえば、当然ながら孤立する。その鬱憤が向けられる先はまず親族だ。

「最初のターゲットになったのは本家の次女、つまり叔父の妹でした。次女夫婦は両親から実家近くの土地を譲り受けて、そこに家を建てて住んでいます。そうした経緯もあり、次女は両親が亡くなるまで5年ほど、献身的に介護していました」

 次女に両親の土地が譲渡されたとき、西崎さんの叔父はまったく反対しなかったという。当時は大手企業でバリバリ働いていたので、土地を誰が相続しようが無関心だったのである。

「ところが、町内会で誰にも相手にされなくなると、いきなり叔父が『あの土地は本来、長男の俺が相続するはずだった』と言い出した。忙しいと言って両親の介護を次女夫婦に丸投げしていたくせに、ヒマになったら途端に文句を言い始めたんです」

 次女にしてみれば、ただでさえ地元に戻ってきた兄が町内会から総スカンを食らって困っていたのに、そのうえ土地相続についても言いがかりをつけられたらたまったものではない。

「あまりに理不尽な態度に次女は激怒し、叔父と絶縁してしまいました。次女だけじゃなく長女や三女とも絶縁し、意固地になった叔父は父と母の法事にすらきょうだいを呼ばなくなってしまいました。もちろん近所の人たちの誰にも相手にされない。

 いま叔父は、家で酒を飲みながら近所の人の悪口を言い、コンビニ店員に当たり散らす毎日を送っています」