Mの手にあったのは、カブトムシの幼虫だった。外の作業で、あちこち掘り返すものだから、いろんなものが出てくるのだ。

 せっかく外を動き回れて、本来は気分のいい仕事内容のはずだったにも関わらず、Mのせいで最悪だった。地面から変なものが出てきませんように、とビクビク祈るような心地だった。

「樹液を舐めろ」と言われたこともあった。

姉ちゃんの住所教えろよ

 ある日など、昼食中にオ●●ーを始めた。平日は房の外に出て作業だが、土日は一日中部屋から出ることはない。刑務官はさっきも書いたとおり、15分から30分間隔でしか回ってこないので、その間ならなんでもできるのだ。

 飯の上に精液をかけて、「これを食え」とHに迫った。このようにMのイジメには、「あれを食え」「これを舐めろ」が圧倒的に多かった。

 実際的な虐待に加え、こたえるのは言葉の暴力だった。

「なんだよお前、こんなこともできねえのかよ。使えねえ」

 人間、そんなふうに罵倒され続けるとやはり落ち込む。自分はやっぱりダメ人間なのか、と思えて精神的に参る。

 会社でのイジメでもそういう「何々ハラスメント」が問題になっているが、娑婆ではまだ家に帰るという逃げ道がある。ところが刑務所では仕事が終わり、部屋に帰ってもずっとそいつと一緒なのだ。一日24時間、気の休まる暇もない。

 家族のことを言われるのも辛かった。「俺、お前より先に出るからな。奥さんのとこに行って、可愛がっといてやるわ」

 口だけだとわかってはいる。それでもやっぱり、家族のことを言われると精神的にこたえるのだ。

 当然、マキちゃんの存在もからかいの対象になる。

「姉ちゃん、どこに住んでんだよ。教えろよ。パンティー盗みに行きたいからよ」

 元芸能人ということで、カラんでくる奴。ミーハーに近寄って来て、芸能界の話題をあれこれ聞きたがる奴。両極端なのは娑婆の不良と一緒だった。

 こんな環境にいると当然、精神的に病む者も出てくる。

 朝食が終わり、工場に行くために「出房」となって先生が扉を開けるのだが、一人だけ出て来なかったり。前にも言ったとおり、工場に行かないと「就業拒否」となり、戒告の対象となるのだが、本人からすればもうどうなってもいい、という心境に陥るのだろう。とにかくこの場から逃げたい、と自暴自棄になるのだろう。

 悩んでも誰にも相談することができない。

 この人なら、と思っても、実はやっぱり上の人に、「あいつ、あんなこと言ってましたよ」とチンコロされるかもしれないではないか。誰も信用できない。疑心暗鬼。

 精神的におかしくなるような環境が整えられているのだ。刑務所を「矯正施設」といっているが、逆のための施設としか思えない。

(後藤 祐樹)